日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1036
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生態
本州亜高山性針葉樹稚樹における樹冠形態と樹冠内特性の機能的な関連
*森 章武田 博清
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抄録

木本種の稚樹では,樹冠の形態が光獲得様式に関連することは様々な樹種で知られている。一般的に,林内で耐陰する種は光をより獲得するために樹高成長を抑え側方へ樹冠を拡張する。逆に,光要求度の高い種は近隣個体からの被陰から逃れるために樹高成長により特化する。このような稚樹の樹冠形態に加えて,葉の特性(寿命・窒素濃度・構造)なども光環境に対応して変わる。例えば,閉鎖林内では葉寿命は低い生産性を補償するためにより長くなる。しかし,葉寿命の延長は古い葉が自己被陰を受ける可能性を高めてしまうかもしれない。それゆえ,閉鎖林内では自己被陰を軽減するために,よりフラットな樹冠形が必要とされる。しかし,この樹冠形は多大な支持コストを必要とする。特に,積雪の多い林分においてはこの支持コストの増大は顕著である。このような樹冠形の変化に伴う支持コストへの投資増大は,葉寿命を延長することで毎年の葉への投資を減らし,枝へより投資することで対応できるとされている。したがって,光環境への可塑性の度合いは,樹冠形態の可塑性と樹冠内の枝・葉の特性の可塑性とが相互に関連し,決定づけられていると考えられる。そこで,本研究では,3種の亜高山性針葉樹種(オオシラビソ・シラビソ・トウヒ)の稚樹を材料に,樹冠形態と樹冠内特性の機能的な関連について調べた。ギャップ稚樹は林内稚樹に比べ,当年枝上に保持している針葉重量が大きかった。これは,好適光環境下でより多くの光を獲得するための針葉の配置を反映したものである。対して,林冠稚樹の当年枝上の針葉の少なさは,より針葉間の相互被陰を軽減し,より効率的に受光するためである。一方,一次側枝上の針葉量はギャップ稚樹・林内稚樹の間で有意差がないか,むしろ林内稚樹の方が多くなった。これは針葉寿命が林内で長くなったことに起因すると考えられる。つまり,針葉寿命が延長することにより,当年枝上の針葉の少なさを補償していたのだろう。また,一次側枝の伸長速度と針葉寿命との間に有意な正の相関が見られた。これは,一次側枝の成長が遅い稚樹ほど針葉を長期間保持していることを示している。特に,オオシラビソ・シラビソの稚樹は,林内で針葉寿命が長くなり,一次側枝の成長が遅くなった。林内では,この2種は側枝成長よりも樹高成長をさらに抑え,結果として樹冠長が小さく樹冠面積が大きい樹冠形を示した。この樹冠形態は閉鎖林冠下での受光効率を高め,2種の耐陰性の高さをもたらすと考えられる。ここで,針葉寿命を延長することは,1)針葉への投資を減らし支持樹冠への投資を増大させることで,フラットな樹冠形に伴う支持コストの増大に対応する,2)同時に一定の葉量を樹冠内に保持する,といったことにつながる。特に,オオシラビソではこの傾向は強く,針葉寿命の延長・側枝成長と樹高成長の抑制などが林内稚樹で顕著に見られた。一方,トウヒは他の2種のような被陰に対する可塑的な樹冠形の変化や針葉寿命の延長は見られなかった。これはトウヒの耐陰性の低さにつながる。しかし,トウヒはフラットな樹冠形を示さないため,支持器官への投資をあまり必要としない。そのため,針葉寿命の延長は必要とされない。さらに,トウヒのこの樹冠形態は支持器官への投資増大を招かないため,単位樹高あたりの個体のバイオマスが少なくて済む。これは,好適光環境における樹高成長においては,トウヒが有利であることを示唆している。

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© 2004 日本林学会
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