抄録
1.目的 植物の成長に必要な養分は根や葉による養分の獲得のみでなく、植物体内の養分の再分配にも依存する。老化する植物組織からの養分の再転流は年齢や立地環境などによってその動的プロセスは異なり、植物の養分保持にとって重要なメカニズムである。しかし、韓国の落葉広葉樹林でのこれに関連した研究はみられない。本研究では、韓国の自生固有樹種であり、分布面積が最も広い天然落葉広葉樹林のである。アベマキ林とモンゴリナラ林を対象として養分の再転率と利用效率を調査し、立地条件との関係について検討した。2. 方法 調査林分は、韓国中部の江原道江原大学演習林内の標高510-540mの山腹に位置するアベマキ林(49年生)とモンゴリナラ林(50年生)で、DBHは21.4と26.9cm、胸高断面積は33.6と39.0_m2_/haである。両林分とも下層植生は制限的に発達してり、また植物の種構成も単純であった。 養分再転流は生育期の葉養分量と落葉期の葉養分量との差で求めた。葉養分量(kg/ha/yr)は相対成長式(logY=A+BlogX;Yは葉乾重、XはDBH)によるha当りの葉量に養分濃度を乗じて求めた。養分利用効率は葉litterfallの養分含量に対する葉litterfall量(kg/ha/yr)の比で求めた。さらに、両林分の養分吸収量(t/ha/yr)とビニール袋埋設培養法による窒素の無機化量(kg/ha/yr)を調査した。 3. 結果と考察 土壌の水分と温度は両林分間に差があり、モンゴリナラ林の方が土壌水分量が高かったが土壌温度はやや低かった。年間窒素の無機量はアベマキ林とモンゴリナラ林でそれぞれ91.4と112.5kg/ha/yrで、アベマキ林で少なかった(図-1)。両林分とも養分の再転率はてN、PおよびKで高く、その中でNの再転率が著しく大き。また、アベマキ林のほうでN、PおよびKの再転流率がより高かった(表-1)。一方Caはほとんど再転流しなかった。葉litterfall量/葉litterfall養分含量の比で求めたN、PおよびKの利用効率は再転流率の高いアベマキ林で高い傾向が見られた(図-2)。一方、アベマキ林はモンゴリナラ林に比べCaを除く年間N、PおよびKの吸収量は少ないが、再転流率は高かった(図-3)。養分の吸収量は、両林分ともN〉K〉Pの順であり、それぞれ養分の再転流率はモンゴリナラ林でN〉K〉P、アベマキ林でN〉K=Pの順である。また、両林分ともNの再転流率が最も高かった。 樹体内の再転流養分の年間養分要求量に占める割合は両林分ともNが最も高く、アベマキ林で42%、モンゴリナラ林で38%である。 以上のように、ほとんど同じ林齢のアベマキ林とモンゴリナラ林において養分の再転流と利用効率に相違が現われた。両林分は同じ母岩であるが、斜面の方向が異なった生育環境であるので、今後斜面および樹種の相違においての相互作用に関する検討が必要と思われる。 *この研究の成果は韓国科学財団支援の目的基礎研究の一部である。