日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1039
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生態
樹種による植生-土壌養分特性の変化
*中島 剛金子 信博藤原 一繪
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抄録

樹種による植生-土壌養分特性の変化○中島剛・金子信博・藤原一繪 (横浜国大環境情報) 1.はじめに主要構成樹種の異なる森林生態系では、林床に供給される落葉の時期や量、内在する養分が異なる。さらに落葉の質の相違は、無機化を通じて土壌へ溶出する養分や、落葉自体の分解速度にも影響する。森林生態系における物質循環は、森林タイプや地形によって特徴的な傾向を持つことが考えられる。そこで本研究では、土壌への養分の供給源と考えられるA0層の堆積しやすい平坦な地形において、隣接して成立するブナ林、およびブナ林を伐採して植栽されたヒノキ林を調査地として、植生(樹種)による養分動態特性の違いが、その後の植生の発達や物質循環に与える影響を明らかにすることを目的とした。2.調査地と調査方法調査は神奈川県足柄下郡箱根町仙石原の国有林(標高988 m)のブナ林とヒノキ林で行った。ブナ林内に2区(Ha1、Ha2)、1922年に植栽されたヒノキ林(Ha3)と1956年に植栽されたヒノキ林(Ha4)に各1区を設け各調査区の面積は約400 m2とした。Ha1からHa4の平均樹高はそれぞれ17、16、20、18 mで、平均胸高直径はそれぞれ46.3、37.7、34.8、24.8 cmであった。2003年9、12月に各調査区において、一辺25 cmの方形区をA0層の状態が平均的な地点に10ヶ所ずつ設置し、A0層を採取した。乾燥後、樹種ごとの落葉、および落枝に分類し、各重量を測定した。分類ごとに一部を分析用試料として、炭素(C)・窒素(N)含有率を測定した。2003年9月に各調査区内の一本の樹木を任意に選択して、樹幹から水平距離で40 cmごと240 cmまでの6点で、6層の土壌A層0_から_5、5_から_10、10_から_5、15_から_20、20_から_25 cm、B層70_から_75 cmの計36個の土壌試料を100 cm3の採土円管を用いて回収した。乾燥後、含水率、pH(H20)、炭素(C)・窒素(N)含有率、交換性陽イオン(K、Ca、Mg、Na)、Mn、Pを測定した。3.結果と考察1922年植栽ヒノキ林(Ha3)では、隣接するブナ林(Ha2)と比較し、A0層中のN含有率には変化が無く、C含率およびC/N比は、それぞれ1.2倍、1.3倍と高かった。土壌深0-25 cmの全C、全N含率およびC/N比でも同様の傾向が見られた。さらにA0層のC、N含有率およびC/N比と、土壌深0-10 cmのC、N含有率およびC/N比とは正の相関がみられた。ブナ林(A層pH4.31_から_5.00、平均4.78)と比較してヒノキ林(A層pH3.88_から_5.21、平均4.69)のpHは、土壌深0-15 cm、幹からの距離0-120 cmにおいて大きく変化し、0.06_から_0.51(平均0.26)低かった。このような樹種に依存した傾向は水平(幹からの距離)・垂直(土壌深)方向共に、幹に近いほど顕著であった。土壌深0-25 cmにおける交換性K、Mg、Caの含有率は、ヒノキ林ではブナ林のそれぞれ0.75_から_0.84倍、0.68_から_1.04倍、1.03_から_2.61倍であった。土壌の交換性塩基濃度と、採取した土壌の乾重より、土壌深5 cm毎の土壌に含まれる交換性塩基量を計算した。表層(0-25 cm)の交換性塩基の和を、全体(0-75 cm)和で割った値を表層集積指数=?(0-25 cm)/?(0-75 cm)とした。この指数を用いて土壌養分特性の変化を検討した結果、ブナ林は、樹幹からの水平距離に依存しない比較的均一な養分特性をもつことが分かった。一方ヒノキ林では、特に樹幹からの水平距離80 cmまでにおいて土壌表層にCaの集積する傾向を持つ不均一な養分特性を示した。この傾向は植栽後の時間がたつにつれ顕著だった。以上のことからブナ林のヒノキ人工林化により、土壌の養分特性が変化することが分かった。ヒノキ林ではA0層としてC/N比の高い難分解な落葉が蓄積し、土壌表層の養分特性に影響する。また樹幹付近の土壌pHが低下し、土壌中の交換性Caが増加する。このことからブナ林の比較的均一な土壌養分特性から、ヒノキ植林により特に樹幹付近で不均一な土壌養分特性に変化することが分かった。

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© 2004 日本林学会
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