日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1046
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縞枯山における樹木の枯死と気象条件
*稲垣 雄一郎岩本 宏二郎鈴木 和夫
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抄録
1.はじめに
縞枯山南西斜面では,シマガレと呼ばれる水平方向に帯状の枯死木帯がみられる。この枯死木帯の斜面上方の成木帯樹木が徐々に枯死し,枯死木帯は斜面上方に移動していく。また,同時に稚樹が更新するため,稚樹帯-若木帯-成木帯-枯死木帯という林分構造が繰り返し形成されている。
このような成木帯の林縁部における成木の枯死原因については,台風・卓越風・雪・日射などが指摘されているが,明確な原因は明らかにされていない。そこで,成木帯林縁部での枯死率の変動と,気象条件の推移とを比較することによって,枯死を促進させる環境ストレスとなる気象条件について検討した。
2.調査方法
長野県縞枯山の南西斜面において,成木帯の林縁部を含むように調査地A区(20m×20m)を,その斜面上辺に接するようにB区(20m×10m)を,それぞれ1992年と1994年に設定し,樹種・DBH・樹高・立木位置について毎木調査を行った。その後,A区においては,1から2回/年の頻度で新しく枯死した樹木を1997年まで調査した。2001年に両区の樹木について,樹高・DBH・立木位置の毎木調査を再び行い,その後,2003年まで新たに枯死した樹木を1回/年の頻度で調査した。枯死木の調査期間の長いA区において,枯死率の推移を考察した。また,調査期間中の気象については,諏訪測候所の風速・気温のデータを用いて,A区における枯死率の変動との関係について検討し,枯死を促進する気象条件について考察した。なお,諏訪測候所は縞枯山から直線距離でおよそ30km離れており,標高差はおよそ1600mである。そのため,諏訪測候所と縞枯山とで,気温や風速の値に差異があると予想されるが,気象の変動については大きな差異が無いものと考えた。縞枯山との気温差については,縞枯山で実測に測定した気温(岩本,未発表)と同期間の諏訪測候所の気温との相関関係から推定した。
B区については,2001年6月-2003年9月までに,枯死しなかった樹木と枯死した樹木の立木位置・サイズについて検討し,枯死原因を考察した。
3.結果
A区の生立木は,1992年12月に290本(7250本/ha)だったものが,枯死木帯の移動によって,1997年11月には103本(2575本/ha)に減少した。枯死木の発生頻度に変動がみられ,とくに1994年6月から11月と,1997年7月から11月に枯死率が高くなっていた。枯死率の増大について,諏訪測候所のデータを検討したところ,1994年と1997年の枯死率が高かった時期の直前の冬期に15m/s以上の最大風速が観測されており,他の年の冬期に比べて風が強かった。
強風が観測された冬期に枯死率が増大せず,次の夏から秋に枯死率が増大したことは,強風によって根返りや樹幹が折れて枯死したのではなく,枝葉や根に物理的な障害が生じ,休眠が開けてからの成長期間に枯死にいたるのではないかと考えられた。しかし,これらの強風は一時的なものであり,樹木の枯死との関係は明らかでない。
次に,気温について検討すると,1994年は他の年と比べて3月から4月の気温の変化が大きく,平均気温で2.3℃から11.0℃(縞枯山の推定気温,-5.4℃から2.2℃)に上昇していた。また,1997年の9月から10月はとくに最低気温が15.3℃から5.8℃(同推定気温,5.3℃から-2.3℃)と大きく低下していた。これらの季節は,縞枯山の樹木の耐寒性が変化する時期だと思われる。つまり,1994年の春では,早くに耐寒性が小さくなった樹木が,再び低温にさらされた時に障害を受けた可能性が考えられ,1997年の秋では,耐寒性の獲得が十分でない樹木が,低温にさらされ障害を受けた可能性が考えられた。とくに,1994年の春には,針葉が変色した樹木が観察され,このことは気温の急変によって針葉に障害がおきていたことを示すものだと考えられた。
2001年6月に枯死木帯と成木帯の境界はB区の斜面下部に存在し,2003年9月までに枯死木帯はおよそ3m移動した。その間に発生した枯死木のサイズを検討したところ,B区の斜面下半分の20m×5mでは,DBH・樹高の大きさに関わらず枯死が発生していたが,斜面上半分では,DBH・Hの小さな樹木の枯死が多かった。このことから,斜面下部の林縁部では風などの環境ストレスによって枯死が起きるが,斜面上部では被圧によって枯死が生じているものと考えられた。
4まとめ
縞枯林の枯死の原因となる環境ストレスは,林縁部で高まっているが,およそ5m以上林内部の樹木にはあまり影響を及ぼしておらず,また,とくに春や秋の気温の急変は,林内部の樹木にも影響を及ぼし,樹木の枯死に大きく関わることが推測された。
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© 2004 日本林学会
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