日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P1047
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スギ人工林における細根の生産量および枯死脱落量の解析
*野口 享太郎阪田 匡司溝口 岳男高橋 正通
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抄録

1.背景と目的根は植物体の支持、水分・養分の吸収・輸送などの生理機能を担う器官である。その一方で、根の成長は炭素や窒素などの養分の固定、根の枯死脱落は土壌への養分の放出を意味することから、最近では、根の物質循環における役割も注目されている。特に、一般に細根と呼ばれる直径1_-_2mm以下の根は、生理活性が高く、発生_-_枯死脱落のサイクルが速いと考えられており、その定量的解析や制御機構の解明が重要な課題となっている。 近年になり、欧米を中心にミニライゾトロン法を用いた細根動態の非破壊観測が行われるようになり、今後、この手法が細根動態研究の主流となることが予想される。演者らは、昨年度の本大会において、ミニライゾトロン法とコアサンプリング法で得られた細根長密度を比較し、細根動態の定量評価のために両手法を併用することの有効性やその問題点(細根の垂直分布に関する相違点など)について報告してきた。 これらの背景に基づいて、本研究では、ミニライゾトロン法とコアサンプリング法を併用し、細根の生産量、枯死脱落量およびその季節変化を明らかにすることを目的として以下の研究を行った。2.試験地と調査方法◎試験地:本研究では、森林総合研究所・千代田試験地(茨城県新治郡千代田町)の25年生スギ林において調査を行った。この林分の地形はほぼ平坦で、林床はクサイチゴなどの下層植生に覆われていた。◎ミニライゾトロン法:2001年12月から2002年1月にかけて、上記試験地のランダムに選んだ7箇所において、長さ1.25m、直径約6cmの透明アクリル製パイプを地表面に対して約45°の角度で設置した(深さ0_-_40cmの範囲)。2002年5月から2003年5月にかけての1年間において、3週間に1度の割合で専用のカメラ(BTC-100X、Bartz Technology、USA)を用いてパイプ表面に現れた根の撮影を行い、得られた画像を根画像解析ソフトウェア(WinRHIZO、Regent Instruments、Canada)を用いて解析した。この際、細根の発生および伸長を生産、細根の消失を枯死脱落とした。◎コアサンプリング法:上記試験地において7箇所をランダムに選び、土壌採取オーガー(Split tube sampler、大起理化工業)を用いて土壌コアサンプルを(深さ0_-_40cm)採取し、これを深さ10cmごとに4つに分け、保冷して研究室に持ち帰った。これらの試料をメッシュサイズ0.5mmの篩い上で水洗し、残った根のうち直径2mm以下のものを細根としてスキャナーを用いて撮影した。得られた画像を根画像解析ソフトウェア(同上)で解析した後、60℃で48時間以上乾燥させて重量を測定した。◎データ解析:コアサンプリング法の試料を用いて画像解析を行った結果、試料中の細根の平均直径(MD)と単位長さあたりの重量(WUL)の間にWUL=0.27MD2+0.00(R2=0.88)の関係が得られた。この関係式を用いて、ミニライゾトロン上の細根と土壌コア中の細根のうち、直径1mm未満の細根について、長さと平均直径から細根重量を求めた。これらの両手法で得られた細根重量の関係から、ミニライゾトロン上の細根重量を林分面積あたりの細根重量に変換した。3.結果と考察本試験地の深さ0_-_40cmにおける細根量(直径<1mm)は、夏期に大きく冬期に小さい傾向を示し、最大で約1600、最小で約800 kg ha-1と推定された(図1)。細根の生産速度および枯死脱落速度も同様の季節変動を示し、それぞれ最大で約30および25 kg ha-1 day-1、最小で約2および1 kg ha-1 day-1と推定された(図2)。これらの経時変動はほぼ同時期に起きており、季節変動に伴い変化する何らかの因子が、細根の生産と枯死脱落の両者に影響していることが示唆された。 また、全調査期間の平均細根量、総生産量、総枯死量は、1.1±0.2 t ha-1、3.5±0.8、2.9±0.5 t ha-1と推定された。これらの結果は、本試験地では細根の回転数が約3回/年であることを示唆している。

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© 2004 日本林学会
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