日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2008
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T5 林教育研究の展開
高等学校における「樹木がわかる林学実習」実施報告
*東原 貴志吉本 和夫
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抄録

 生徒が森林・樹木について理解を深め、興味関心を高めることを目的とし、大阪教育大学教育学部附属高校平野校舎の3年生「生物」履修者76名を対象に、生物特別授業「樹木がわかる林学実習」を実施した。この実習は、(独)林木育種センター東北育種場研究員の東原を講師とし、吉本(教諭)、廣澤(TA)とのチームティーチング形式で行った。平成15年9月11日(木)12日(金)15日(祝)に、本校生物室および京都大学フィールド科学教育センター上賀茂試験地にて、実習1「木材構造観察実習」と実習2「京大演習林実習」の構成で、以下の通り実施した。実習1木材構造観察実習(「生物」履修者76名全員) 実習1では、一般に高校では入手困難である、ヤマザクラ木口面切片の永久プレパラートを用いて木材の構造を光学顕微鏡で観察させ、木材構造に関する小問を6題解答させた。木材を構成する細胞の形態からその機能や生細胞・死細胞の区別を知ることや、肉眼で見える年輪の実体を細胞レベルで観察することによって、「木材に見られる年輪とは一体何か?」を実感し、細胞からなりたつ生命の世界に迫ることをめざした。 木材プレパラート観察中に、年輪構造や細胞壁を発見した時の驚きを表現する生徒がみられた。生徒にとり、死細胞が樹木を支えていることは意外であったようである。この実習を通じて、樹木が周期的に生長し年輪構造を形成することや、細胞の死と引き換えに強度を獲得する巧妙なしくみを生徒に理解させることができた。実習2京大演習林実習(希望者参加21名) 実習2では、京大上賀茂試験地にて、「この木なんの木ゲーム」を主体とした樹木の観察を行い、生徒が主体的に森林の多様な樹木の違いを学べるように工夫した。「この木なんの木ゲーム」とは、事前学習で学んだ生物の分類法・樹木の識別法に従い、与えられた19枚の樹木説明写真(カラープリント)をもとに、演習林に生育する15の樹木名を答えるものである。講師の説明を聞きながら山を歩くだけの受け身的な実習を避けるため、演習林の山頂までの往路では、講師は樹木の説明を一切行わず、樹木プレート名を隠して樹木名を当てさせ、復路で樹木名の答え合わせと説明を行った。ゲームに出題したブナ科の樹木のほとんどは、樹木説明写真にみられるような典型的な形態を示していなかった。そのため、当てずっぽうではなく、葉や幹、実の特徴や分類法などを理解し、樹木識別のポイントを押さえないと正解にはたどりつけない。また、アベマキとクヌギ、シラカシとウラジロガシのようによく似た樹木を出題し、科学的思考を行わないと全問正解できないように工夫した。ゲーム終了後、なぜ樹木名を間違えたのかを生徒に問題提起し、図鑑にある樹木と演習林で観察した現実の自然との違いを認識させ、「なぜ、このような違いが生じるのか?」を考えさせることによって、生命や自然の本質に迫ることをめざした。「この木なんの木ゲーム」では、ゲーム感覚で優劣を競わせた結果、生徒は、樹木説明写真の情報を手がかりに、みずから手にとって樹木を事細かに観察した。ゲーム開始直後には、樹木名を答えるのに長考した生徒がほとんどであったが、観察を続けるうちに、樹木識別のポイントを理解し、短時間のうちに樹木名を答えるようになった。ゲームを終えた生徒には、なぜ樹木名を間違えたのかを考えさせることによって、樹木が置かれる生育環境や個体間の差により同じ樹種でも一本一本がそれぞれ異なる形質を持つことを理解させることができた。

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© 2004 日本林学会
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