日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2014
会議情報

林政
保安林の概念について
*古井戸 宏通駒木 貴彰
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 CO2吸収源として保安林の成長分をカウントすることが諸外国の理解を得られる否かが問題になっている。この問題は、保安林における施業のあり方、ひいては保安林と生産林の区別、保安林制度と森林計画制度(旧営林監督制度)との関係、保安林の定義等、保安林の概念にかかわる根本的諸問題に還元しうる。こうした諸問題への接近は、わが国において1897年の森林法によって保安林制度が導入された際に、19世紀後半当時の諸外国や旧藩の事例が整理・分析されたのを嚆矢とする。以来、植村(1917)が諸外国の事例を整理し、林学会討論会(1929)で批判的検討がなされ、その後島田(1960)が戦後のドイツ諸邦の事例を加え、筒井迪夫の諸論考が森林法における位置づけを考究し、ZORN(1999)が日独墺3国の比較研究を行った以外には、理論的にも実証的にもほとんど研究例をみない。本研究では、保安林制度が発達した欧州における保安林制度とその運用についての最新の知見を整理することにより、表記の問題へ接近した。 文献サーベイおよび、欧州諸国のヒアリング調査により、以下の諸点が明らかになった。(1)法文上、保安林を定義した例は無く、具体的例示的規定がほとんどである。学説上は、ENDRESの定義があり、この定義は「外部不経済発生防止のため転用禁止および施業制限が必須である森林」と解釈できる。墺国は19世紀半以来、私有林施業規制に対する補償の要否によってSchutzwaldとBannwaldに分類しているがこの用語法は独語圏すべてに共通ではない。(2)各国の保安林の性格を伺わせる指標として森林面積に占める割合がある。スイスは20世紀初頭から保安林のみが林業助成の対象となり、1993年以降全森林が保安林となった。フランスは1%台以下で、スイスと対照的である。墺国は中間の2割程度である。スウェーデンは、全森林について「木材生産と環境保護を同等に考慮する」と森林法で規定し、他の環境法制によるゾーニング以外、ゾーニング的発想を採っていない。(3)保安林での木材生産は、ノルトライン・ヴェストファーレン邦のように保安林における積極的木材生産を規定する例や、一切施業しない森林を通常の保安林とは別に設けるバーデン・ヴュルテンベルク邦のような例がある。総じて保安林における木材生産は是認ないし推奨されているようにみえるが、墺国のSchutzwaldのうち禁伐林が6割を占めるなど国による差がみられる。(4)施業については、スイスや墺国で保安林の「手入れ不足」が問題となっており、災害リスクの大きい山岳林地域での保安林の施業方法がアルプス協約の枠組みにも関係して課題となっていることを伺わせる。(5)地理的・気候的・自然的・歴史的・社会経済的諸条件を加味した比較分析が今後の課題である。

著者関連情報
© 2004 日本林学会
前の記事 次の記事
feedback
Top