抄録
高知県梼原町では、2002年度より開始された「森林整備地域活動支援交付金制度」に先駈けて、2001年度より町単独事業として「水源地域森林整備交付金事業」を開始した。本報告では、梼原町の事例をもとに、このような森林管理に関する交付金制度が地域の森林所有者のインセンティブとなり間伐推進などの効果として現れるのか、また制度の効果を上げるための課題は何であるかについて、特に交付金支給の前提となる団地編成と施業協定を集落で取りまとめるリーダー的存在に注目して考察する。梼原町は四万十川源流部に位置し、林野率80%を超え、森林面積21,595haのうち民有林が85%を占め、人工林率は75%である。2000年にFSC森林認証をグループ認証で取得したほか、2001年には「自治体環境グランプリ」を受賞するなど環境に配慮した地域づくりで、全国的に注目を集める町である。水源地域森林整備交付金事業は、同町が定める「森づくり基本条例」に基づき、具体的には間伐推進策とFSC森林認証への加入促進策として開始された。財源には町独自の「環境基金」が利用されており、同基金には風力発電による買電益が含まれる。5ha以上の団地を編成し、5ヵ年の施業計画について町との協定が成立した後に間伐を実施すると、森林所有者に対して間伐実施面積1haにつき10万円が直接支払われる。団地編成にあたり町と森林組合は、町が認定した間伐推進員と協力しながら集落単位に説明会を繰り返し行った。このような普及活動の結果、申請は当初予算の限度額を超えるものであった。交付金支給の前提となる団地編成に関する参加意向と集落でのまとめ役の引き受けに関して把握するために、森林所有者へのアンケート調査を行った。対象は在村の森林組合員約半数から住所の判明している者553名(組合員の42%)とした。回答数は250であり、有効回答率は45%であった。集計結果から全体では団地編成に「積極的に参加する」との回答が13%、「参加しても良い」との回答が44%と参加意向を持つものが過半を占めていたが、まとめ役の引き受けについては54%が「できない」と回答していた。年齢別では、まとめ役を「できない」とする回答の割合が40歳代以下と70から80歳代以上の年齢層で高い割合であった。50歳代で「既に引き受けている」か「積極的に引き受ける」と回答する割合が最も高かった。保有規模別では、小規模層でまとめ役は「できない」との回答が最も高く、「既に引き受けている」または「積極的に引き受ける」との回答は20haから50haの中規模層で最も高かった。 梼原町における同事業の効果は、1ha当たり10万円という交付金が大きなインセンティブとなり町内での間伐が進んだほか、国の交付金支給の前提となる森林施業計画制度の認定手続きが円滑に遂行されたこと、FSC森林認証への加入が進んだことなどがあげられる。また、事業の推進には、集落でのまとめ役の確保が必要であり、梼原町ではそれを50歳代の年齢層が中心的に担っていることが明らかとなった。ただし、この年齢層は10年後、20年後には60歳から70歳代となり引退を迎える人が多くなると予想できる。今後の課題としては、こういった集落でのまとめ役を確保するためのソフト事業の拡充があげられる。