日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2017
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林政
里山保全・利用・管理に関する地方自治体の取り組み
関東地方市町村を対象としたアンケートから
*吉村 妙子野田 英志細田 和男田中 亘
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抄録

関東地方の里山林の保全・利用・管理の概況を把握するため、関東地方の1都6県(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)の全473自治体を対象に、2003年10月から11月にかけて「自治体における里山林保全の取り組み状況に関する調査」(郵送アンケート形式)を実施した。有効回答数は199(有効回答率42.1%)であった。
解析の結果、以下の点が明らかになった。まず、有効回答の得られた自治体の人口や人口密度、林野率等から地理的状況をみたところ、人口が増えているが森林も比較的多く残っている地域の自治体が多いと考えられた。
現在、里山林が日常的に利用されているところがあると回答した自治体は56.1%で、落ち葉の利用やシイタケの原木採取といった旧来型の利用が約3割、市民の森や自然観察といった新しいタイプの利用が約2割であった。
里山林が利用されなくなったことによる問題発生の有無については、77.8%の自治体が「問題あり」と回答した。最も多かったのが廃棄物の投棄(52.5%)で、とくに問題になっている点として挙げた自治体も多かった。管理担い手の不足(46.0%)、鳥獣害(24.2%)、竹林の拡大(21.7%)が続く。管理担い手の不足や竹林の拡大に対しては対処しきれていない自治体が少なくないが、各種補助事業による森林整備、ボランティア育成等の実施例もあった。
独自の里山林保全・利用に関する施策や条例を設けている自治体は20.1%、検討中の自治体は4.0%で、南関東で比較的多かった。取り組みの内容は、施策の実施が17.6%、条例の制定が8.1%で、緑地を保全し住民のレクリエーションや憩いの場を確保することを目的にしたものが多い。その他、法令に基づかない取り組みでは、茨城県、群馬県、千葉県で県補助事業の実施がみられた。
里山林の利用・保全に関わるボランティア活動の事例は4割近くの自治体で確認されていた。東京都、神奈川県を中心に南関東でボランティア活動の事例が多い傾向があった。群馬県では、自治会のような地域団体を基盤にしているとみられるグループが目立った。自治体とボランティアとの関わりの状況は、支援を行っている自治体が45.2%で、東京都と神奈川県では支援の実施とともにボランティアからの要望も多い。今後のボランティア育成については、育成する考えのない自治体が最も多く4割を超えていた。
里山林の今後の利用について検討した自治体は5.6%、現在検討中の自治体は22.2%であり、まだ少数派である。検討した内容および検討中の内容で多かったのは、森林レクリエーションや環境教育の場としての利用であった。
全体の傾向としては、都市化が進行している地域ほど取り組みや市民ボランティアが活発であったが、森林の豊かな地域での取り組み例もあり、地理的な状況と施策との両面から更なる検討が必要であると考えられる。

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© 2004 日本林学会
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