日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2033
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風致
地域住民によるフットパスづくりの到達点と課題
北海道根室市の酪農家集団による運動を事例として
*松村  綾子山本 美穂久保 文香
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抄録

1.研究の背景と目的  フットパスとは、英国の長距離自然遊歩道の事を指す。英国のフットパスは、グリーンツーリズム(以下GT)の一環として捉えられており、農村地域への経済効果が高い。近年英国の影響を受け、日本各地でフットパスづくりを実施する団体が見られる。これらのフットパスは、自然を楽しむという従来の自然遊歩道の特徴に加え、地域の事を知るといった目的も付随している傾向がある。そのため、フットパスを用いた地域の振興へと繋がる可能性がある。本研究では、先駆的な事例である根室の運動の到達点と課題を明らかにし、今後の方策について考察する事を目的とする。2.研究の方法5戸の酪農家(グループ名AB-MOBIT、以下MOBIT)に活動経緯と今後の意向、関係者7人(以下関係者)MOBITとの関わりと今後の意向、ルートが設定された周辺の牧場経営者(以下住民)7戸に、自分の土地にフットパスを敷設する事への考え、GTやMOBITの活動への意向を聞き取った。3.調査結果活動経緯:Uターンで1994年に戻ってきたメンバーの中心人物I氏は、「生産者の事を理解してもらいたい」という想いから、1997年に根室管内初の体験型牧場を始めた。更にI氏は、2000年にGTへ向けた施設を導入し、マスコミにも取り上げられるなど、根室管内でも有名な酪農家となった。同時期、酪農家の友人らとMOBITを結成し、市民参加型のイベント活動を始めた。その中から5人の牧場を30kmのフットパスで繋ぐという構想が生まれ、2003年には、関係者の支援のもと、全国から参加者を募ったワークショップが開催され、2戸の牧場を結ぶフットパスが完成した。その後、I氏は森林管理署にルート周辺の国有林の苗畑跡地を環境教育の場として利用する事を申請した。関係者および森林管理署の意向:いずれの関係者も、今後もMOBITの活動を支援して行きたいと好意的であった。JRのみフットパスによる乗客数の増加を期待して協力したが、それ以外は、地域のリーダー的存在のI氏であるから協力したという面が強かった。関係者は、フットパスによるGTの促進を望んではいるものの、今後の具体的な方策については、曖昧な状態であった。森林管理署は、MOBITがどのような団体か分からないため、現段階では様子を窺っているという状況であった。住民の意向:住民は、酪農1本志向が強く、GTを自ら行おうとは思わないが、MOBITの活動に関しては、反対する人はいなかった。中には「将来GTをやってみたい」、MOBITの活動に関して「地域振興になる」と述べた理解ある層も存在した。人が地域に訪れる事は、誰しも賛同していた。しかし、フットパスに対しては、「誰が歩くのか」と疑問を呈する人が多かった。土地の侵入に関しては、土地の端なら良いと回答した人もいるが、土地の中央は、経営への影響から、全員拒んだ。4.考察フットパスという媒体を用いてMOBITと個別に関わってきた関係者の総括的活動が行われた事が、運動の到達点として挙げられる。運動の課題の1点目として、運動が特定の人物に依存しており、一人抜けると運動が停滞する危険性がある事が挙げられる。その要因として2つ考えられる。_I_関係者が受身の状態である。関係者は、GTに関しては積極的であるため、今後フットパスとGTの橋渡しが必要とされる。_II_住民がGTを理解していない。住民は、GTは酪農以外の経営をしなければならないと考えており、MOBITの活動に参加するにはハードルの高い状態となっている。今後フットパスも含め、GTについての十分な説明が必要とされる。課題の2点目として、フットパスのルートが公有地とMOBITの牧場だけで終わっている事が挙げられる。住民の土地の端を利用し、「地域に人が来る」という趣旨でのフットパス整備は可能である。今後の可能性として、MOBITの活動は酪農と観光の間に位置しているが、上手く機能すれば、森林サイドや複合経営を行わない農家との連携もとれる事が考えられうる。地域住民によるフットパスづくりは、土地所有者を含め、多くの主体の連携を自ずから要請する。地域の様々な主体のニーズをどうくみ上げ、地域振興に繋げて行けるかが、今後のフットパスづくりの決め手である。今回は、受け入れ側のみの研究となったが、利用者の確保についても検討する必要がある。

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