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第115回 日本林学会大会
セッションID: P2048
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経営
主伐可能なヒノキ立木の成長回復特性
*時光 博史
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抄録

1.目的 列状間伐は気象害に弱い林をつくるおそれがあり,残存木をよくするという間伐の目的に合致しない面もあるが1)主伐可能となった林分から生産を行いながら間伐を進めることができる手法である。そこで木材生産に伴う強度な列状間伐が行われた林分の成長回復の特性を明らかにして,林業経営者の判断資料とする。
2.方法 140本生立する次の林分のうち6本を樹幹解析し,列状間伐による5年間の肥大成長を評価した。
 対象林分は広島県庄原市標高550mの南東向斜面上部に残存する500本/ha,上層樹高17m,胸高直径12から31cm,平均22cm,標準偏差3cmの42年生ヒノキ林分。列状間伐後残存していたと思われる立木のうち2%の本数は調査時点で幹折れ枯死木となっていた。列状間伐は平成9年に1から2列残存,1から5列伐採,架線による搬出が行われたと所有者から聞きとり,試料の採取は平成15年3月に行った。
 試料木は胸高直径20から22cmの中の木4本,26cmの大の木1本,16cmの小の木1本とした。樹幹解析は地上1.2m位置から2mごとに各立木から円板を採取して4方向の年輪を1年ごとに0.1mm単位でデジタルノギスによって読み取り,t年年頭の年輪半径の平均値r(t)を求めた。
連年成長量はt年について半径r(t+1)-r(t),断面積π((r(t+1)2-r(t)2)として求め,それぞれを 年頭の直径d(t)=2r(t)によって図化した。
また肥大成長の大小は連年成長量を次の3区分とし,3区分の境界としてやや大,やや小の2区分を加えて5段階とした。
大:半径成長量2.5mm/年以上,中:半径成長量2.5mm/年未満かつ断面積成長量が5cm2/年以上,小:断面積成長量5cm2/年未満
さらに時間の経過は,間伐実施年とその前年を間伐前,間伐実施後1年目と2年目を間伐直後,3から5年目を間伐後として,幹直径が6cm以上の部分について図から読み取った。
3.結果 大の木の肥大成長は間伐前に中,間伐直後に大,間伐後はやや大であった。中の木の肥大成長は間伐前に小またはやや小,間伐直後は中,間伐後は中またはやや小であった。小の木の肥大成長は間伐前に小であり,間伐直後に小,間伐後も小であった。
このことから列状間伐による残存木の肥大成長促進効果は,大の木で大きく,中の木にもみられ,小の木にはみられなかった。特に間伐直後の2年間に肥大成長促進効果は明瞭にみられた。
4.考察 列状間伐後5年経過した40年生を超えるヒノキ林から採取した試料木6本のうち,小の木を除く5本に間伐によると考えられる肥大成長の回復が認められた。
図から読み取った連年成長量は間伐直後に大となり,その後低下した。その最大値は保育技術の1つの目標となる年輪幅2から3mm1)を大きくは超えないものであり,肥大成長の回復は過大とはいえなかった。
 しかし胸高部位においては5年目に間伐直後と同等またはそれ以上の成長がみられるものがあり,今後増大する傾向にあると思われた。また間伐前と比較して比較的小径の試料木のほぼ樹冠内に当たる年頭直径10cm以下で成長の低下がみられた。強度な間伐実施直後に観察されるヒノキ立木枯死との関係が疑われる。
 さらに間伐前においては,択伐林に適用される樹幹成長モデル2)のとおり断面積成長量が陽樹冠基部高以下で位置によらず同値といえた。しかしその他の成長は半径成長が地上高によらず一定の場合が多いと思われた。観察された傾向が今後継続,拡大すれば,過大となる肥大成長の制御とその根拠となる強度間伐のための成長モデルが必要となる。今後の課題としたい。

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© 2004 日本林学会
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