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第115回 日本林学会大会
セッションID: P2071
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経営
ラオス北部地域における焼き畑移動耕作の空間分布とその要因
*古家 直行KEOMORAKOT Bounmanh
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抄録

1.背景と目的 近年水資源に関連して国際河川であるメコン流域について注目が注がれている。ラオスはメコン流域において上流から中流にかけて広い面積を占めており、この植生や土地利用の変化は地域に大きな影響を与え得る。とりわけラオスの北部山岳地帯においては焼き畑移動耕作が農民の生業として広がっており、この活動は少なからぬ影響を与えていると考えられる。政府としても焼き畑移動耕作の対策を国としての重要な課題としているものの、地域に他に主だった産業がなく、また地形的な制限もあることから一足飛びに問題の解決が図れる状況ではない。このような中で近年90年代後半より森林及び土地利用区分事業及びそれに伴う土地の利用権分配事業が行われ、焼き畑移動耕作の箇所についても制限が行われている。そこでこの事業から数年が経過しており、この成果と現状について明らかにし、同時にこの政策が焼き畑移動耕作の分布に与えた影響について事例を挙げて紹介する。2.対象と方法 対象はラオス北部地域のルアンプラバン県とビエンチャン県に位置する村落を対象とした。方法はまず空中写真並みに植生や土地利用の判読の可能な高分解能の衛星画像(QuickBird衛星画像)を利用し、これを参照しながらの現地聞き取り調査及び踏査によって、村落ごとの境界の確定、森林及び土地利用区分境界の確定を行った。これをベクタ情報として村落ごとに図面を作成した。また、それぞれの区分について村長及び村人に現状の認識について過去との比較を行ってもらいながらインタビューした。3.焼き畑移動耕作の概要 伝統的には陸稲の栽培が焼き畑移動耕作においては行われてきたが、政府の方針などで換金作物の栽培が奨励されており、ハトムギやゴマなど地域ごとに換金作物の栽培が徐々に拡大してきている。70,80年代にはまだまだ森林資源も豊富で各地において立派な森林を切り開いての焼き畑を行っていたらしく、草刈りなどの労働も少なくて済み、広い面積でしかも収穫も良く、耕作も急傾斜の箇所から山頂まで至るところで行われていたという。現在では単位当たりでの収量が期待出来ない場合でも、しばしばそのような土地では単位当たりの必要労働量も多くなるため単純に栽培面積を広くすることは出来ない。4.森林・土地利用区分、分配事業の概要 90年代後半から徐々に各地で区分事業が行われた。森林については、保全林、保護林、利用林、再生林などに区分される。保全林は山の斜面上方や急傾斜の箇所などに設定され木材の伐採などは基本的に禁止。保護林は沢沿いや水源地域などに設定される。利用林は村人の住居用や柵の作成などのための木材伐り出しなどの利用のための森林でありしばしば村落の近くに設定されている。再生林は衰退した地域を対象として植生の回復を図る地域である。これらの森林区分の他に農業用地として利用する区域が指定され、その区域の中で世帯の人数や安定した収入の得られる水田などの所有の有無などを考慮しながら、それぞれの家族に土地の利用権が配分された。村落には村落内の森林資源の管理を義務づけ、農民には自らの土地に対する管理意識を持たせる狙いがある。また税金などの徴収も厳格に行えるようになってきている。5.結果a.焼き畑移動耕作の空間分布 対象とした地域では山の斜面上方などでは多くが保全林などに指定され、遅くとも区分事業以降には焼き畑箇所としての利用は禁止されていた。これに伴い、植生の回復が進んでいる地域が多かった。70年代から80年代など急峻な箇所や山奥、山頂部分に至るまで、至る所で焼き畑移動耕作が行われていたということであり、以前と比べると焼き畑移動耕作の空間分布は明らかに限定されてきていた。b.森林及び土地利用区分の現状 森林及び土地利用区分事業については、村長はもちろん農民に聞いてもそれぞれ一様に評価していた。村にとっては近隣村との、農民にとっては隣人との土地を巡るトラブルが境界が明確化し減少したとのことである。配分された農地面積は村落面積と世帯数、水田の有無などが状況を左右するが、扶養する家族が多く農地に生計を依存せざるを得ない世帯には配分を多くするなど、村落内部での配分は柔軟で内部の配分の問題よりも、村落間での格差に焦点を当てている声が多かった。

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© 2004 日本林学会
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