日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P2076
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経営
モニタリング調査データに基づく九州地方における収穫表の調整
*北原 文章吉田 茂二郎村上 拓彦光田 靖前田 勇平
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抄録

1.はじめに
近年,「森林原則声明」と「アジェンダ21」で示されているように,持続可能な森林経営の重要性が国際的に認識されている。わが国もヨーロッパ以外の温帯林と北方林諸国とで,モントリオールプロセスとして温帯林等の保全と持続可能な森林経営を評価するための基準・指標を合意した。わが国はこれまで森林簿のみを基礎とした森林資源の把握を行ってきたが,森林簿による森林情報からでは,この基準・指標に対応できない項目が多い。そこで1999年度からわが国でも森林資源モニタリング調査(以下モニタリング調査と記す)が行われることになった。
現在九州のモニタリング調査点の内,スギ,ヒノキ人工林は多く,適正に人工林を管理することが重要になっている。今回,収量比数(Ry)を林分密度の指標としてとりあげ,民有林の密度管理図からRyを算出しその値により林分がどのような状態にあるかを把握し,適正な林分と判断できるものを抽出した。そこで現在の収穫表の情報が現状に即しているか確かめることを目的とし,モニタリング調査データを利用して,九州地方における適正な林分の基準となる収穫表の調製を行った。
2.方法
1)林分材積の推定
離島を除く,九州管内においてスギ,ヒノキ人工林の1999_から_2002年までの計4年分のデータを用いた。モニタリング調査では,胸高直径は毎木調査されているが,樹高は1林分につき20本を計測するため,樹高未推定木においてはネズルンド式をあてはめ,樹高推定した。次に樹高と胸高直径より九州地方の材積式にて単木当たりの材積を求め,各プロットの面積割合からha当たり材積を求めた。
2)適正な人工林の抽出
 今回,適正なスギ,ヒノキ人工林を抽出するに当たって,各プロットにおいてのha当たりの断面積合計を求め,スギ,ヒノキそれぞれの断面積合計割合が75%以上のものを抽出した。モニタリング調査データには各プロットの林分の面積割合がありそれを占有率と呼んでいるが過大評価の恐れがあったので全体の占有率の50%以上を抽出した。さらにスギにおいては熊本,鹿児島県の国有林収穫表(地位上,中,下)から5年ごとの収量比数(Ry)を国有林の密度管理図から計算し,その最大値最小値に±0.1の幅を持たせ,その範囲内にあるものを抽出した。
3)収穫表の調製
各プロットの上層木平均樹高,熊本県の収穫表のパラメータ,林齢からRichards成長関数のA(成長の上限値)を逆算し,そのAの値から40年生の上層木平均樹高をRichards成長関数で推定した。その上層木平均樹高を地位指数(SI)としてRichards成長関数(式1,2)にあてはめた。
スギ:V=(61.084×SI-311.789)×(1-EXP(-0.0272×AGE))^1.655  (R^2=0.81)  _-_式(1) 
ヒノキ:V=(57.472×SI-213.27)×(1-EXP(-0.0314×AGE))^2.183 (R^2=0.41) _-_式(2)
V:ha当たり材積 AGE:林齢 SI:地位指数
3.結果と考察
 抽出したスギ人工林は129プロット,ヒノキ人工林は60プロットであった。特にスギ人工林はRyの範囲外のプロットが128プロットと非常に多かった(図‐1)
調製した収穫表(図‐2)は,実際の九州各県の現実収穫表と比べ大きく評価され理想収穫表となり適正に管理すればこれだけの蓄積が得られると考えられる。Ryの範囲内の林分が適正に管理している林分とすると,Ryが最大値以上の林分は密な林分であると言え,最小値以下の林分は疎な林分と言える。Ryが最大値以上の林分は適正な管理がされてないと考えられ,Ryが最小値以下の林分は弱齢林であるか攪乱があった林分であると考えられる。

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© 2004 日本林学会
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