日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3027
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造林
中国黄土高原における生態系回復に関する基礎的研究(1)
延安周辺におけるリョウトウナラ天然林の林分構造
*山中 典和Du sheng山本 福壽大槻 恭一Xue ZhideWang shengqiHou Qingchong
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抄録

中国の黄土高原においては現在、外来樹種のニセアカシアが多く植林されている。しかし、乾燥による森林限界付近ではニセアカシア林の土壌中に乾燥層が発達し、枯死や先枯れが目立ってきており、外来樹種による単純一斉造林の問題点が指摘されつつある。今後は、持続的な緑化という観点から郷土樹種を用いた本来の生態系の回復についても研究を進める必要がある。今回は、郷土樹種を用いた生態系回復のためのモデル植生として、黄土高原の延安付近にわずかに残存しているリョウトウナラ天然生林に焦点をあて、林分構造と更新に関する調査を行った。調査は黄土高原の中心部にあたるー「西省延安市郊外の公路山(N36°25′40″、E109°31′53″、alt.1353m)周辺で行った。ー「西省においては、北に行くほど降水量が減少し、乾燥が進むが、公路山を含む延安市一帯は、乾燥による森林限界付近と考えられており、延安地域を境に北に行くと森林は見られなくなり、潅木・草原地帯になる。調査地に最も近い観測点である延安市内の気象は1982年から1998年までの統計で、年平均気温は9.9℃、年降水量は517mmである。2002年10月に公路山のよく保護されたリョウトウナラ林に20mx40mの調査区を4つ設定した(Q1:N36°25.40’, E109°31.53’, alt.1353m, Q2: N36°25.865’, E109°31.526’, alt.1287m, Q3: N36°25.547’, E109°31.697’, alt.1266m, Q4: N36°25.885’, E109°32.71’, alt.1395m)。各調査区では胸高直径1cm以上の樹木すべてにマーキングを行い、樹種名を同定すると共に、胸高直径の測定を行った。また優占するリョウトウナラについてはすべての個体について樹高の測定を行うとともに、林冠木の他、各サイズクラスから数本ずつ選び、地上30cm位置で成長錘サンプルを収集し、年輪解析を行った。調査結果として、4林分ともに最も優占していたのはリョウトウナラ(Quercus liaotungensis)であり、BA割合で86.2_%__から_95.7_%_を占めた。本数の多いものとしてはCotoneaster sp.、 Caragana microphylla、Spiraeapubescens等が大きな割合を占めた。しかしこれらの種は下層を構成する種であり、樹高は1_から_2m程度であった。森林の上層を構成するリョウトウナラの平均直径は8.8cm_から_12.1cm、大きなものでは38.5cmのものがみられた。樹高は高いもので10m_から_14mであった。リョウトウナラ以外に上層を構成する種としてAcer stenolobum, Syringa oblata, Armeniaca sibirica, Pyrus betulaefolia, Acer ginnala, Platycladus orientallis等が出現した。リョウトウナラの直径分布はほぼL字型を示す林分(Q1、Q4)と一山型の林分(Q2,Q3)がみられた。L字型を示した林分では、直径1cm以下のリョウトウナラ稚樹も林内には多く見られ、リョウトウナラが連続して更新しているものと考えられた。成長錘サンプルの解析から、今回調査した林分はいずれも年齢の若い二次林であった。L型の直径分布を示したQ1プロットでは地上30cm地点の最高樹齢が59年であった。またQ1プロットでは年齢と胸高直径に強い直線関係が認められ、乾燥における森林限界に近い延安周辺においても、リョウトウナラの成長は約60年で直径30cmに達することが認められた。年齢と胸高直径の関係式から求めたQ1プロットの齢構造では、林内に若齢個体が多く存在しており、リョウトウナラによる更新が連続的に行われていることが明らかとなった。

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