日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3042
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動物
ニホンジカの生息密度による林床植生への影響
大規模実験柵設定後1年間の変化
*松尾 浩司野宮 冶人堀野 眞一柴田 銃江八木橋 勉田中 浩新山 馨伊藤 英人丹羽 滋北原 英治
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抄録

1.目的
近年、ニホンジカ(以下シカ)による農林業被害や自然植生の改変が各地で報告されており、シカ個体数の増加が一つの原因と考えられている。シカと共生可能な森林管理技術を構築するためには、シカの生息密度を操作して、シカが森林生態系に与える影響を明らかにすることが必要である。
本研究は、大規模な囲い込み柵(以下、大規模実験柵)を利用してシカの生息密度を管理し、シカの採食が林床植生の種多様性と現存量に与える影響を明らかにすることを目的とし、導入から1年間の変化を示す。
本研究は、農林水産省プロジェクト「野生鳥獣による農林業被害軽減のための農林生態系管理技術の開発」の一部を構成している。

2.方法
シカの分布していない茨城県北部の高萩市と久慈郡里美村にまたがる国有林内に、1/4km2 (L柵)と1/16km2 (S柵)の2基の大規模実験柵を建設し、2002年6月29日にシカ(雌、3歳)を、L柵とS柵に1頭ずつ導入した。
大規模実験柵内の植生区分は、スギとヒノキの苗を植えた新植地、落葉広葉樹が優占する保残帯、スギとヒノキの35-36年生の人工林に大別され、L柵とS柵の各植生区分に10m×10mの調査区を6プロットずつ配置して調査を行った。そのうち半数の調査区を小型のシカ排除柵で囲み、対照区(0頭km-2)とし、残りを採食区とした。L柵の採食区を低密度区(4頭km-2)、S柵の採食区を高密度区(16頭km-2)とした。
それぞれの採食区において、2m×2mの植生調査枠と1m×1mの刈り取り調査枠をそれぞれ4つずつ設定した。ただし、対照区では前者を4つ、後者を2つずつ設定した。植生調査枠では、植被率と最大植生高を記録し、出現種とその被度を調査した。刈取り調査枠では地上高2m以下の維管束植物の地上部を刈取り、カテゴリー分けして乾燥重量を測定した(80℃、48H)。2003年に刈り取ったミヤコザサは、当年部と越年部に分けた後、それぞれをさらに葉と稈に分別して稈数、稈長など形態に関する測定を行った。

3.結果
シカの導入前後で、林床植生の出現種数などの種多様性を示す値や、最大植生高に明確な差は見られなかったが、植被率は新植地と保残帯の高密度区で有意に低下した(それぞれp < 0.05、0.01)。
地上部現存量はどの植生区分でも2003年で減少し、シカの密度が高いほど、前年からの減少は大きくなる傾向が見られた。特に、林床にミヤコザサが優占する新植地と保残帯では、ミヤコザサの減少が、そのまま地上部現存量合計の減少に反映していた。
ミヤコザサの稈長や稈あたりの現存量はシカ密度が高いほど小さくなり、稈数は逆に増加する傾向にあった。このような傾向は新植地のミヤコザサでも顕著であった。

4.考察
シカの分布していない地域で調査を行ったことから、被食の影響を強く受ける植物の存在を期待していたが、シカの導入から1年間では、植物種が消失して種組成が変わるような、質的変化を確認することはできなかった。
しかし、林床植生の現存量には、シカの生息密度に応じた影響が確認された。特に、林床に優占するミヤコザサに対する影響は顕著で、Yokoyama (1998)が大台ヶ原で示したように、シカの採食はミヤコザサの稈の矮小化や稈数の増加に影響していた。

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© 2004 日本林学会
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