日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3072
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動物
スギ樹冠層と土壌層における小型節足動物群集およびその利用資源としての枯枝葉の時空間分布
*吉田 智弘肘井 直樹
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抄録

1.はじめに森林生態系を形成している樹冠層と土壌層には、物質循環において重要な役割を果たしていると考えられる腐食・菌食性の小型節足動物が多数生息している(Hijii 1989; Watanabe 1997)。これら動物群集の構造や機能を明らかにしていくためには、圧倒的な量の光合成産物と複雑な空間構造がもたらす生息環境を定量的に把握する必要がある。特に、腐食・菌食性の小型節足動物群集の餌やすみ場所資源であるリターの存在様式は、動物の時間的、空間的な分布に大きく関与していることが推測される。そこで本研究では、スギ人工林の樹冠層と土壌層に存在する小型節足動物と枯枝葉を垂直的な階層ごとに経時的に調査することにより、スギ人工林における小型節足動物群集およびその利用資源として考えられる枯枝葉の時間的、空間的な分布を明らかにした。2.材料と方法調査は、愛知県北東部に位置する名古屋大学大学院生命農学研究科附属演習林内の33年生スギ人工林でおこなった。調査した林分は樹高約20 mで、過去の施業により約7 mまで枝打ちがなされていた。2003年5月から1ヶ月間隔で、樹冠層および土壌層における枯枝葉と小型節足動物を、以下の方法により調査した。・樹冠層毎月、異なる4本のスギ調査木に1本はしごを設置し、それらの樹幹に付着するすべての枯葉と枯枝(直径5 mm以上)を採取した。枯枝葉の垂直分布を明らかにするために、林床からの高さ1 mごとの樹幹に付着する枯葉と枯枝を、その階層の枯枝葉として採取した。回収した枯枝葉は通風乾燥機(85℃、48時間)で乾燥し、重量を測定した。節足動物の採集は、上記の枯枝葉採取時に、1 mごとの各階層から一定量の枯葉をポリエチレン袋に回収しておこなった。これらの枯葉から、ツルグレン装置(20 W, 7日間)を用いて動物を抽出し、80%エタノール中で保存した。その後、抽出した動物は分類群ごとにまとめて個体数をカウントした。・土壌層樹冠層調査の影響の及ばない地点において、土壌層に堆積するリター量(L層堆積量)を調査した。毎月数本のスギ立木から半径1 m以内に、方形枠(25 cm×25 cm)を10ヶ所設定し、その内側のL層を採取した。その後それらを実験室に持ち帰り、樹冠層の場合と同様にしてツルグレン装置により動物を抽出し、保存した。そして、すべてのリターを通風乾燥機(85℃、48時間)で乾燥し、重量を測定した。3.結果と考察スギ樹冠層の枯葉からはトビムシ目とササラダニ類が多数確認され、いずれも月平均個体数密度は夏に最大で、それぞれ17.4、3.2 [g-1]であった。両者は春から夏にかけて増加し、その後、冬にかけて減少した。一方、土壌層(L層)においてもこれらの分類群は優占しており、樹冠層と同様、夏に個体数密度が高くなる傾向がみられた。樹冠層の枯葉と枯枝は、多いもので単木あたり枯葉16.8 kg、枯枝10.6 kg採取された。それらは春から夏にかけて減少し、秋に増加する傾向がみられた。一方、土壌層(L層)のリターは、春から秋にかけて減少し、その後増加する傾向がみられた。樹冠層の小型節足動物および枯枝葉の垂直分布をみてみると、枯葉上のトビムシ目では、垂直分布に一定の傾向はみられなかったのに対し、ササラダニ類は樹冠層下部から上部にいくにしたがって個体数密度が減少する傾向がみられた(図)。また、枯葉と枯枝は、それぞれ地上から10 _から_ 13 m、9 _から_ 11 mの範囲に多数存在していた。以上のことから、小型節足動物と枯葉・枯枝の時間的、空間的(垂直)分布には特に関連は認められず、小型節足動物の時空間的な分布パターンには、他の要因が関係していることが推察された。

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© 2004 日本林学会
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