日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P3119
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立地
Acacia Mangium の収穫に伴う養分の収奪と還元
インドネシアスマトラ島の事例から
*向井 悠紀子太田 誠一金子 隆之沖森 泰行Dwi SulistyonoSaifuddin Anshori
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抄録

1 背景と目的熱帯アジア域で急速に拡大しているマメ科早生樹種であるアカシア類を用いた産業造林は、その成長の早さや比較的貧栄養な土壌でも良好な生育を示す性質から今後さらなる拡大が予想される。しかし短期間で植栽と収穫を繰り返す早生樹造林は林地からの養分収奪が多く、地力を低下させることが懸念されている。一方、熱帯地域の早生樹造林における養分収支に関する科学的な調査事例は特にアジアでは少ない。養分収支面から見た持続可能性は造林地毎に異なる可能性が高く、持続可能な早生樹造林を実現するためには土壌条件の異なる造林地での養分収支を明らかにし、これを類型、定式化することが必要となっている。そこで本研究ではインドネシアスマトラ島においてAcacia mangiumの伐採に伴って収奪される養分と還元される養分についての解析を行った。また同時に林地間の養分量の差と土壌条件との相関についても考察した。2 調査地と方法調査はインドネシア南スマトラ州(年間降水量2,000-3,000mm、平均気温22-33℃)に位置する約20万haのAcacia mangiumパルプ用産業造林地(伐期8年)において行った。生育状況が異なる砂質土壌と埴質土壌の二箇所の7年生(伐期1年前)の林分にそれぞれ約1haの調査プロットを設置した。毎木調査後、胸高直径クラスの異なる10本をプロット周辺から選び出して器官ごと(幹、樹皮、枝、葉、果実、根)のバイオマス量を測定した。これをもとに各器官の相対成長式を作成し、各林分のバイオマス量を算出した。さらに各林分で平均的な胸高直径クラスの2本を選び出し、器官ごとに養分分析用サンプルを採取した。分析した元素はC, N, P, K, Ca, Mgである(C, NはNCアナライザ_-_によって、P, K, Ca, Mgは硝酸_-_過塩素酸法で湿式灰化後、Pはモリブデンブルー比色法、K ,Ca, Mgは原子吸光法で分析)。各器官毎にバイオマス量と養分濃度から養分量を算出した。そのうち収穫される径8cm以上の材(樹皮含む)の養分量を養分収奪量とし、それ以外の残渣として林地に残される部位の養分量を養分還元量とした。3 結果と考察各器官の養分濃度を比較するとN, P, K, Mgは葉で、Caは樹皮で最も高かった。材の養分はいずれもごく低濃度であった。また枝、根は直径が小さいほど養分濃度が高く、材では心材よりも辺材の濃度が高かった。Nを除く各養分濃度は林地差間で顕著に異なり、埴質土壌で濃度が砂質土壌より高い傾向を示した。この結果、林地間で全ての養分量に差が見られ、Kの林地間差は3倍近くに達した。両林分での土壌調査の結果によれば土壌養分量も大きく異なることから(山下、未発表)、土壌養分量が植物体の養分量を規定している可能性が示された。また、バイオマス量の林地間差が比較的小さいにも関わらず養分量の差は大きく、特にKでその傾向が顕著であった。養分収奪率は元素によって異なり、Ca>N≧K>Mg, Pの順に高い。Caは樹皮で濃度が高いため収奪率が特に高かった。次に樹皮を林地に残すと仮定した収奪率を試算すると全ての養分で13-25%にまで低下し、Caでも48-59%から14-20%まで大幅に低下した。このため樹皮を林地に残すことで養分損失を大幅に減らすことが可能であると考えられた。深さ30cmでの土壌養分量と残渣中の養分量から試算した継続可能なローテーション回数はK, Caでは2~3回であった。8年では大気や風化起源の養分供給で収奪養分を補うには不十分であると考えられ、近い将来K, Caが枯渇する可能性が示唆された。さらに、残渣の大部分は分解が早いと考えられる葉や細枝、細根であり、試算ではこれらの分解により次のローテーションの初期に供給される養分量は次世代植栽木の初期の吸収量を2-4倍上回り、植栽初期にKをはじめ可動性の高い養分の損失が生じる可能性があり、これらの養分の枯渇の可能性はさらに高くなることが予測された。

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© 2004 日本林学会
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