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第115回 日本林学会大会
セッションID: P3118
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多摩川上流域から下流域にかけての都市化の進行が森林土壌の化学的性質に及ぼす影響
*神澤 嘉顕高橋 輝昌浅野 義人小林 達明
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抄録

1.目的 都市化が森林土壌に与える影響として、pHの上昇、土壌有機物量の減少、菌類相の単純化、菌根菌の活性の低下が報告されている。しかし、都市化が緑地土壌を変化させる仕組みとして、粉塵や建築廃材の影響が考えられているが、未だに不明な点が多い。一般に河川の上流域から下流域にかけて都市化が進行する傾向にある。下流域では、上流域に比べて、都市化の影響を強く受けると考えられる。そこで、本研究では、多摩川流域にある緑地土壌の性質を上流から下流にかけて調査し、都市化による土壌環境の変化を化学的、生物的な面から明らかにすることを目的とする。
2.調査地
多摩川流域のコナラ、クヌギを主とする森林型緑地を多摩川の河口から奥多摩湖周辺にかけて、10km程度おきに1,2箇所ずつ合計15箇所選定した。図-1のように、多摩川の上流域から下流域にかけて、周辺市町村の人口密度は、上昇し、人口密度の上昇は、都市化が進行していることを示している。
3.方法
それぞれの森林内で土壌深0_から_5cmの表層土壌をA0層の状態が平均的な6箇所_から_10箇所から、およそ100gずつ採取した。採取した土壌を乾燥させ、1mmのふるいにかけ、実験に供した。
土壌のpH(H2O)をガラス電極法(風乾土:H2O=1:2.5)で、全炭素量、全窒素量をCNコーダー法で、有効態リン酸濃度をブレイ第二法で、セミミクロショーレンベルガー法の抽出液を使い、インドフェノール青法でCEC(陽イオン交換容量)を、交換性カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、ナトリウム(Na)量を、原子吸光法で測定した。ただし、CEC、交換性塩基量の測定には、各調査地の土壌を混合し、実験に供した。
4.結果および考察
交換性塩基量は、いずれの元素についても、総量(Ca+Mg+K+Na)についても、都市化の進行に伴って、増加した。交換性塩基の元素の組成をみると、Caの割合が都市化の進行に伴って高まった。
全炭素量は、都市化の進行に伴って増加する傾向を示した。全窒素量、有効態リン酸量は、全炭素量と同様に、都市化が進むにつれて増加する傾向を示した。各調査地での、樹木の落葉による有機物の供給量を推定した結果、都市化の進行に伴い、大きくなると予想された。また、調査地のうち6箇所で土壌の微生物活性を測定した結果、都市化が進むにつれて、低くなる傾向を示した。以上より、都市化が進んだ下流域では、有機物の供給量が多くなる一方で、微生物活性の低下により、有機物が無機化されにくくなるため、土壌中の全炭素量が多くなると考えられる。有効態リン酸量は、pH(H2O)の上昇に伴い、有効態リン酸量が増加したと考えられる。交換性塩基量や全窒素量、有効態リン酸量の増加は、樹木の生育を促進し、落葉量を増加させる一因になると考えられる。
CECは、都市化が進むにつれて増加した。pH(H2O)とCECは、正の相関にあり、pH(H2O)が高くなると、CECもまた、高くなる。CECは、全炭素量とも正の相関が高くなっており、全炭素量が増加すると、CECも増加する。
以上のことから、CECが河口に近づくにつれて増加する要因として、_丸1_都市化が進んだ場所では、全炭素量の増加によるCECの増加、_丸2_比較的都市化されていない場所の低pH(H2O)下での陽イオン交換基の不能化によるCECの減少の2つの要因が考えられる。
塩基飽和度は、交換性塩基量の増加に伴い、都市化が進むにつれて増加した。pH(H2O)(図-2)は、塩基飽和度が高まったことにより、上昇したと考えられる。
5.まとめ
都市化の進行は、交換性塩基量の増加、塩基飽和度の上昇によって、pH(H2O)を上昇させていた。pH(H2O)が上昇することにより、有効態リン酸量が増加した。また、有機物供給量を増加させ、微生物活性を低下させていた。これらのことから、土壌中の有機物量は、都市化の進行に伴い増加したと考えられる。

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© 2004 日本林学会
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