日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4003
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樹病
ナラ枯れ宿主木の生理学的研究
*竹内 友二竹本 周平山崎 理正二井 一禎
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抄録

1.目的 ナガキクイムシ科穿孔性昆虫の1種であるカシノナガキクイムシ(Platypus quercivorus)の穿入によってナラ類が大量に枯死する被害が、1980年頃から日本海側を中心に問題になっている。これらの被害木からは例外なく Raffaelea quercivoraが高頻度で分離されている。本研究では本菌の主な宿主木であるミズナラ(Quercus mongolica var. grosseserrata)とコナラ(Quercus serrata)の3年生苗に対してR. quercivoraを接種し、その後本菌の材内進展の様子と、それに伴う材の抽出成分の変化を時間的・空間的に解析することを目的とし、R. quercivoraの再分離と材の抽出成分の定量を行い、その結果を両樹種間で比較した。2. 材料と方法1)Raffaelea quercivoraの接種2003年の7月上旬に、苗の地表から垂直上向きに約10 cmの部位にドリルを用いて直径1.2 mm・深さ4cmの穿孔3点を施し、その穿孔に爪楊枝に繁殖させたR. quercivoraを接種した。また非接種区(対照区)の穿孔には無菌の爪楊枝のみを接種した。2)サンプリング接種後1、2、3および4週間目に接種部位を含む垂直上向きに18 cmの主軸を採取した。この主軸を3cm毎の6つのセグメント計6つに剪定バサミで分割し、各セグメントの下部数mmを菌の再分離に、残りを抽出成分の定量に用いた。処理区としてはミズナラ・コナラともに接種区と対照区、さらに接種後1週間毎に4週間目までの合計16 処理区を設け、各区につき7本の苗を供試した。3)Raffaelea quercivoraの再分離 各試料を0.5 _%_アンチホルミン溶液で5分間表面殺菌した後滅菌水で3回洗浄し、PDA平板培地に置いた。その後20 ℃の暗室に約1週間静置し観察した。4)材抽出成分の定量各試料を凍結乾燥させ、剪定バサミで数mm角に刻んだ後、ボールミルにより粉砕し、粉末状にした。この試料を50 _%_メタノールで24 時間抽出し、その抽出液からトータルフェノール、縮合型タンニン、エラグタンニンを比色法によりそれぞれ定量した。3. 結果1) Raffaelea quercivoraの再分離 Raffaelea quercivoraの各部位における分離率については、ミズナラ・コナラ両樹種とも接種点で最も高く、接種点から離れるにしたがって減少していた。ミズナラ・コナラ間でR. quercivoraの分離率および分離部位に大きな違いは見られなかった。 Raffaelea quercivora接種区の試料では、ミズナラ・コナラ両樹種ともに対照区より明らかに大きな辺材変色域の形成が認められた。接種区では、ミズナラ・コナラ両樹種とも変色域の形成は接種部位付近に留まっていたが、R. quercivoraは変色域から離れた部位からも分離された。2)材抽出成分の定量ミズナラ・コナラ両樹種とも各抽出成分量が一度ピークに達し、その後減少した。しかし、ピークに達したのはミズナラが接種後3週間目であったのに対し、コナラは接種後2週間目であった(図1)。一方、対照区の各抽出成分はミズナラ・コナラ両樹種ともに、接種後時間が経過しても大きな変動は認められなかった。4.考察材抽出成分の定量実験の結果、材抽出成分量の時間的な変動様式においてはミズナラ・コナラ間で差が見られた。一方、R. quercivoraの再分離試験では両樹種間に差は見られなかった。これらのことから、ナラ枯れ被害の程度は本菌の材内進展の程度によるものではなく、それぞれの樹種が菌の感染に対して引き起こす生理的防御反応の応答速度の違いによるものである可能性が示唆された。

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© 2004 日本林学会
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