日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4004
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樹病
弱病原力マツノザイセンチュウを2回接種したマツの誘導抵抗性
*小坂 肇相川 拓也菊地 泰生清原 友也
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抄録

マツノザイセンチュウ(以下、センチュウ)はマツ材線虫病を引き起こす病原生物である。しかし、その病原力の変異は非常に大きく、マツを高率に枯死させる分離株からほとんど枯死させない分離株まで存在する(清原, 1989)。そして、病原力の弱い(弱病原力)センチュウを接種されたマツは、後に病原力の強い(強病原力)センチュウを接種されても枯死しないことがあることが明らかになった(清原, 1989)。この現象は、弱病原力センチュウの接種によりマツにマツ材線虫病に対する抵抗性が誘導された(誘導抵抗性が発現した)と考えられている。誘導抵抗性の発現程度は、弱病原力センチュウの接種方法(例えば接種頭数)により異なるため、より頑強に誘導抵抗性を発現させる方法の開発が求められている(小坂, 2003)。 動物の病気では、同じ病原生物が同一の宿主に2度目に侵入したときに宿主の免疫能力が向上することがある。このことをブースター効果という。同じ種類のワクチンを時間をおいて2回接種する場合があるのは、ブースター効果を利用してより病気に強い免疫能力を得るためである。 マツ材線虫病に対するマツの誘導抵抗性の発現と病気に対する動物の免疫獲得は、現象としては同様である。そのため、マツにおいてもセンチュウが複数回侵入したときにマツ材線虫病に対する抵抗性が向上するかもしれない。そこで、本研究ではアカマツ及びクロマツに弱病原力センチュウを時間をおいて2回接種したときの誘導抵抗性の発現を調べた。 1999年と2000年の2回、試験を行った。1999年は森林総合研究所内の苗畑に生育する3年生アカマツ及びクロマツ苗木を用いた。6月29日、7月15日及び8月4日に所定の頭数のセンチュウ懸濁液(0.05ml)または蒸留水(0.05ml)を接種した。11月16日に健全な苗(枯死した苗と葉の一部が赤く変色した苗以外、すなわち病徴が全く表れていない苗を健全とした)を確認して誘導抵抗性の効果を調べた。2000年は森林総合研究所千代田試験地に生育する4年生アカマツ及びクロマツ苗木を用いた。6月16日、6月30日及び7月14日に所定の頭数のセンチュウ懸濁液(0.05ml)または蒸留水(0.05ml)を接種した。11月21日と翌年3月2日に苗の健全性を確認して誘導抵抗性の効果を確認した。いずれの試験も、弱病原力センチュウはOKD-1分離株、強病原力センチュウはKa-4分離株を使用した。 弱病原力センチュウを2回接種したアカマツの健全率は、1回接種したアカマツのそれより高かった。すなわち、弱病原力センチュウを2回接種することで、マツのマツ材線虫病に対する誘導抵抗性の発現程度を高められる可能性が示された。しかし、クロマツの場合、弱病原力センチュウを2回接種しても生存率あるいは健全率が高くならない場合もあった。弱病原力センチュウを2回接種しても、誘導抵抗性の発現程度が劇的に向上しない可能性も考えられた。

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© 2004 日本林学会
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