日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4007
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樹病
電撃のマツ材線虫病に対する防除効果
*田島 瑠美玉泉 幸一郎辻 英敏高倉 和雄
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抄録

1.目的
 マツ材線虫病の防除法として種々の方法が用いられてきた。その中で、薬剤を松の樹幹に注入する樹幹注入法は、高い防除効果を持つことから、現在、有効な防除法として多用されている。しかし、この方法には樹幹への穿孔に伴う傷害、腐朽菌が侵入しやすい事、薬害、高価である事等の欠点がある。そこで、新たな防除法として考案されたのが電撃を利用して防除を行う電撃防除法である。この方法は、マツ材線虫病に罹病した松の樹体に定期的に電撃を与え、侵入して来た線虫の活動を抑え、あるいは壊死させて、発病や病徴進展を遅らせるものである。我々は、この電撃防除法が樹幹注入法の欠点を補う新たな防除法であると捉え、電撃防除の効果を確認する事を試みてきた。しかし、これまでに行われた枯死率を指標とした電撃防除試験では、効果の認められる結果と、効果の認められない結果が混在した。その原因は、この方法が試験木のサイズ、試験環境、あるいは電撃の強さや印加時間など多くの内的、外的要因に影響されやすいことにあると考えられた。このことから、本防除法の確立にはさらに詳細な実験データの蓄積が必要となっている。そこで本研究では、まず、マツ材線虫病の進行に対する電撃の効果を明らかにすることを目的として実験を行った。実験では、マツ材線虫病の初期症状として認められている樹脂滲出異常を指標としたが、新たに、初期症状として顕著な変化を示す樹皮呼吸を指標に加え、それらの指標の時間的な変化を観察した。
2.方法
 供試木には九州大学農学部構内に生育する6年生のクロマツを用いた。平均樹高、根元直径はそれぞれ2.5m、5.3cmであった。各実験では、コントロールに1本、接種木に2本、接種+印加木に実験第1回目は1本、2、3回目は2本、また1回目には、印加のみを1本供試し、それぞれクロマツ5本を用いた。マツノザイセンチュウの接種実験は3回行い、接種日は2003年7月14日、8月7日、9月10日で、1年生側枝の先端に3千頭/0.1ccに調整されたマツノザイセンチュウを3箇所に計9千頭/本を接種した。線虫は強毒性のKa-4系統を用いた。電撃装置は実験開始直前に設定し、電撃の印加は、接種直前から始めた。電撃の印加は当年生主幹の基部と地際部との間に行った。印加は、電圧18000v、電流20mAを1秒間で3分毎に行った。呼吸速度の測定は供試木の幹に呼吸チャンバーを設置し、チャンバーへの流入空気と排出空気のCO2濃度を赤外線ガス分析計で計測して求めた。チャンバーへの流入空気は5l/minとし、測定は各チャンバーで1時間に1回行った。樹脂滲出は針葉除去跡からの樹脂滲出量をおよそ3日に1回、目視により観察し、同時に針葉の葉色変化も観察した。
3.結果と考察
 第2回目の実験における樹皮呼吸の変化を、接種日を1とした相対値として示した所、接種木3、4の樹皮呼吸は接種日から12日目と13日目に増加した。しかし、接種+印加木2では31日目の実験終了日まで増加は認められず、接種+印加木3では22日目まで増加は見られなかった。樹脂滲出については、接種木3、4で異常が見られたのは20日目であったが、接種+印加木2では測定期間中の異常は見られず、接種+印加木3は46日目に異常が起こった。樹脂滲出の停止は、接種木3、4はそれぞれ22、28日目、接種+印加木3は78日目であった。3回の実験の結果をまとめると、電撃により呼吸速度、樹脂滲出異常ともに遅れて発生し、実験1では呼吸速度は6.5日、樹脂滲出の異常は1.5日、実験2では10.5日と26日、実験3では1.5日と20日であった。このことは電撃がマツ材線虫病の進行を抑えていることを示しており、電撃がマツ材線虫病に効果のあることを意味する。シャーレ内の培養線虫に電撃を与えると、線虫の増殖率は低下することから、樹木内でもこの効果により線虫の増殖が抑えられ、樹皮呼吸増大あるいは樹脂滲出異常の時期を遅らせたと考えられる。しかし、枯損に関しては接種+印加木において5本中4本が枯死し、電撃によって枯損を食い止めることはできなかった。今後は、さらに研究を進め、枯損防止のための印加条件を見出す必要がある。

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© 2004 日本林学会
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