日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4018
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樹病
モミサルノコシカケ人工接種によるトドマツ溝腐病の発生
*山口 岳広
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抄録

 モミ類の白色腐朽菌でトドマツ溝腐病を引き起こすモミサルノコシカケ(Phellinus hartigii)をトドマツに人工接種し、トドマツ溝腐病の発生・拡大と辺材腐朽の被害進展を調査した。
 シイタケ用種駒材に培養した菌を接種源として1993年5月、20年生のトドマツに接種を行った。接種後、毎年外部病徴である樹皮の病斑の有無と大きさ外観から調査した。接種9年後の2002年5月に接種木5本対照木1本を伐倒し腐朽の進展長および腐朽体積を求めた。腐朽材から火炎滅菌法により再分離を行った。モミサルノコシカケ接種木には早いものでは接種3年目から病斑が発生し接種9年後の病斑の軸方向の長さの平均は68.6cmであった。
 トドマツに接種したモミサルノコシカケは,トドマツ5本に接種した32箇所の接種点のうち20箇所から腐朽が進展し、腐朽の軸上下方向における平均進展距離は9年間で102.8cm、算出された腐朽材積量の平均値は81.5cm3 であった。これらの平均値から軸方向の年平均腐朽進展長は11.4cm、年平均腐朽増加量は75.7cm3と算出された。なお、対照木には腐朽は生じなかった。
 病斑長および病班面積と腐朽進展長との間には有意な正の相関があった。また病斑面積と腐朽材積の間にもそれぞれ正の相関があったが、病班長と腐朽材積の間には有意な相関は見られなかった。材の腐朽が腐朽が見られた20箇所の接種点のうち、17箇所の腐朽材からは接種したモミサルノコシカケが再分離された。
 この実験はモミサルノコシカケを人工的に接種しトドマツ溝腐病を再現することに成功した初めての報告であり、これによってモミサルノコシカケがトドマツ溝腐病の病原菌であることを病理学的に初めて立証することができた。腐朽進展長および腐朽材積はそれぞれの個体および接種個所によって非常にばらつきが大きいが、これは腐朽菌を接種後材部に定着進展するまでの時間がまちまちであることが考えられる。また、外部病徴である病班(溝)が早い例で接種後3年ほど経過して出現することから、モミサルノコシカケは接種後辺材部から進展し、やがて形成層に達していくのではないかと考えられる。病斑長および病班面積と腐朽進展長・腐朽材積との間には有意な正の相関があることから、外部病徴である病斑の大きさから腐朽材積を推定できる可能性が示された。

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© 2004 日本林学会
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