日本林学会大会発表データベース
第115回 日本林学会大会
セッションID: P4031
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海抜高および肥大成長に伴うヒノキ樹幹変形木の出現割合
*在原 登志男齋藤 直彦
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抄録

1.はじめに<BR> 福島県のヒノキ林では,枯れ枝の巻き込みまたは枝打ち残枝(死節となる)等を中心として樹脂流出を伴うまたは伴わない樹幹の陥没,さらには樹幹の一部または全体がふくれた樹幹変形木がかなりの割合で発生している。<BR> そこで,海抜高および肥大成長に伴うヒノキの樹幹陥没等変形木の発生状況を調査した。<BR>2.調査方法<BR> 調査は,海抜高が100mから660mに位置する中・浜通りのヒノキ28林分で行った。調査林のうち,高さ0_から_2mにおける枝打ち林は18林分,残り10林分は未枝打ち林であった。林分の林齢は7年_から_75年生,平均胸高直径は5cm_から_43cmで,林分の傾斜は0度_から_50度であった。2002年5月から2003年8月にかけて各林分とも50本の個体を対象として,樹幹下部(0_から_2mの樹幹部)の変形状況を以下の4つに区分した。ほぼ健全木:全く陥没の発生がなくほぼ正円筒形のもの,またはわずかな陥没がある状態で,変形のさほど目立たないもの。一部ふくれ木:陥没の深みが大きく溝状となり,隣接する樹幹の一部がふくれているもの。徳利病木:樹幹下部が全体的にふくれて徳利病の病徴を呈するもの。漏脂病木:樹脂流出を伴って,またはかって伴ったと推定される激しい陥没を生じ,樹幹が不規則に変形して漏脂病の病徴を呈するもの。<BR>3.結果と考察 <BR> 調査した28林分における平均胸高直径とほぼ健全木,一部ふくれ木,徳利病木および漏脂病木の出現割合をを検討した。その結果,ほぼ健全木は肥大成長に伴って出現割合が減少した(R=0.68,P<0.01)。一方,一部ふくれ木は出現割合が増加した(R=0.47,P<0.05)。また,漏脂病木も同様に増加した(R=0.60,P<0.01)。なお,小野町の1林分は,出現割合が62%と極端に高かった。当林は畑作跡地に植栽されたもので,12年生時の平均胸高直径が15cmほどと成長が良好であるため,漏脂病が多発したものと推定される。しかし,徳利病木は肥大成長に伴う出現割合の増減は認めがたく(R=0.32,P>0.05),特定の林分で高い傾向が伺えた。本病は,黒色土壌や膨軟な土壌という特定の立地条件で多発するといわれている 。<BR> 次に,調査24林分(徳利病および漏脂病の発生がなかった4林分を除く)における海抜高と漏脂病木の出現割合を検討した。その結果,漏脂病木は海抜高の上昇に伴い出現割合が増加した(R=0.43,P<0.05)。漏脂病の発生は高海抜地で多発する傾向が既に認められている。<BR> ところで,今回の調査にあたっては,低海抜地での徳利病の発生が漏脂病よりも高い傾向を感じた。そこで,徳利病または漏脂病いずれかの発生がみられた24林分において(漏脂病木の出現割合)_-_(徳利病木の出現割合)を算出し,海抜高ごとに両者の発生状況を検討した。その結果,海抜高がおおむね400m未満の林分(n=12)での両者の発生は,ほとんど差がない(ゼロの値)か,または徳利病が多かった(マイナスの値)。これに対して,400m以上の林分(n=12)では,明らかに漏脂病の出現割合が増加し(プラスの値),海抜高の区分間に差がみられた(P<0.05,t検定)。<BR> 以上の結果から,本県におけるヒノキ林は肥大成長に伴いほぼ健全木が減少し,枯れ枝の巻き込みまたは枝打ち残枝に起因する一部ふくれや漏脂病という樹幹変形木が増加していると考えられた。また,高海抜の林分では,漏脂病の多発する傾向が再確認された。一方,徳利病は特定の立地条件を有する林分で多発するものと推定されるが,特に低海抜の林分においては,漏脂病にも増して発生していると考えられた。<BR>

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© 2004 日本林学会
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