抄録
マツ材線虫病の病原体であるマツノザイセンチュウ(以後線虫と略す)の病原力(マツを枯らす能力)には大きな変異があり、マツに対して非常に強い病原力を示す個体群からほとんど示さない個体群まで存在する。マツを枯らすことのできない弱病原力線虫がマツ林内で個体群を維持できるのは、強病原力線虫とは違った生態的特徴を持っているためだと考えられる。本研究では線虫が媒介昆虫であるマツノマダラカミキリへ乗り移ってから離脱するまでの行動に着目し、線虫の病原力と離脱率(媒介昆虫から離脱した線虫の割合)との関係について調査した。その結果、病原力の弱い線虫は強い線虫と比べ、①マツノマダラカミキリの初期保持線虫数(マツノマダラカミキリ体内に保持されるマツノザイセンチュウの総数)が少なくなること、②マツノマダラカミキリの寿命が長くなること、③マツノマダラカミキリから離脱する線虫の割合が高くなることなどの特徴を持つことが示された。これらの結果から、病原力の弱い線虫は、媒介昆虫の寿命に影響を与えず離脱率を高めることによって個体群を維持している可能性が考えられた。