理学療法学Supplement
Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
セッションID: A-P-03
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ポスター発表
トレッドミル走行運動がラットヒラメ筋におけるグリア細胞株由来栄養因子とその受容体mRNA発現量に与える影響 成体ラットおよび老齢ラットを比較して
上原 美南海国分 貴徳大野 元気金村 尚彦
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キーワード: 老化, 運動, 神経栄養因子
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抄録
【はじめに、目的】神経栄養因子は神経細胞の発生・成長・維持・再生を促進させる物質の総称であり,グリア細胞株由来栄養因子 glial cell line-derived neurotrophic factor(以下,GDNF)はその中の一つである.先行研究では,走行運動によりラット脊髄やヒラメ筋などの神経成長因子,脳由来神経栄養因子mRNA発現量が増加することが報告されている.しかしGDNFを対象とした研究は少なく,その影響は未だ不明である.本研究では,ラットヒラメ筋におけるGDNF,その受容体である受容体型チロシンキナーゼRET(以下,RET)mRNAの発現量に対する走行運動の影響を,成体ラットおよび老齢ラットで比較・検討することを目的とした.【方法】Wistar系雄性ラット21 匹(老齢群2 年齢13 匹,成体群9 週8 匹)を対象とした.さらに走行群,非走行群とランダムに分類した(老齢走行群7 匹,老齢非走行群6 匹,成体走行群5 匹,成体非走行群3 匹).走行群は小動物用トレッドミルを使用し,傾斜0 度,走行速度10.8m/minにて60 分を1 日1 回,週5 回,1 ヶ月間の条件で運動を課した.全てのラットにおいて,餌や給水は自由摂取とした.実験終了後ヒラメ筋を採取し,急速凍結した.採取したヒラメ筋はホモジナイズし,total RNAを抽出後,逆転写反応によりRNAからcDNAを合成した.得られたcDNAを鋳型とし,GDNF,RET,内部標準遺伝子となるGAPDHのmRNAプライマーを用い,リアルタイムPCRの比較Ct法によってmRNA発現量を検討した.各群のmRNA発現量を比較するために一元配置分散分析を用い,下位検定にはScheffeの方法による多重比較を用いた.有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】本研究は大学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った.【結果】GDNF,RET mRNA発現量ともに,成体非走行群に対し成体走行群,老齢走行群,老齢非走行群で有意に発現量が高値を示した(p<0.01).老齢非走行群の発現量を1 とすると,GDNF mRNA発現量は老齢走行群で1.72 倍,成体走行群で0.8 倍,成体非走行群で0.02 倍,RET mRNA発現量は老齢走行群で1.17 倍,成体走行群で2.55 倍,成体非走行群で0.07 倍であった.【考察】本研究では,ラットヒラメ筋におけるGDNFとその受容体であるRET mRNAの発現量に対する運動の影響および,ラットの週齢の違いによる影響を比較した.成体期において運動による発現量の増加がみられたのは,筋が持つGDNFおよびRET mRNA生産能力が,運動によって向上したことが考えられる.また,老齢期では有意な差こそ認められなかったものの走行群で発現量が増加傾向であった.過去の研究結果から,運動により骨格筋でのBDNF発現量が高まることは一貫して確認されているが,GDNFでも同様,運動により発現量が高まることが示唆された.Ulfhakeらは,老齢期の神経生存に関わる因子はBDNFからGDNFへ移行すると報告しており,本研究においてもそれを支持する結果となった.神経の生存・維持に関係する因子が週齢によって変化し,特に老齢期における神経生存や維持にはGDNFが深く関わっていると推測された.GDNFは強力な運動ニューロン栄養因子と考えられており,発生過程における運動ニューロンのアポトーシスをGDNFが抑制すること知られている.また,GDNFがRETを活性化しシグナル伝達を引き起こすRETのリガンドであり,GDNFがRETのリガンドとして作用するためにはもう一つの受容体であるGFRα1 が必要であることも複数の報告で示されている.GDNFは筋肉や脊髄に発現が強く,RETおよびGFRα1 の発現は脊髄や後根神経節を初めとした様々な末梢神経系にみられている.脊髄運動ニューロンにRET-GFRα受容体複合体が存在し,標的組織の筋肉にGDNFが高発現することから,GDNFは筋肉からの逆行性輸送により運動ニューロンに作用すると考えられている.以上のことも踏まえると,本研究では運動介入が神経・筋機能の成長や退行の抑制に効果的であることが推察された.今後は運動条件や筋の種類の違いにより,神経栄養因子mRNAの発現にどのように影響するのかについて検討する必要がある.また,GFRα1 とRETの発現の関連なども検討することで,GDNFの理解がより深まると考える.【理学療法学研究としての意義】GDNFは神経細胞の生存や再生などに非常に重要な役割を担っており,特に脊髄運動ニューロンの発生と分化,生存に深く関与している.本研究では運動介入が神経・筋機能の成長や退行の抑制に効果的であることが推察され,運動療法の効果についてエビデンスを提供できるものと考える.
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© 2013 日本理学療法士協会
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