抄録
人工林において,斜面下方の個体成長が斜面上方よりも優れる現象がしばしば観察されるが,成長差の生じるメカニズムについては不明な点が多い。これまでヒノキ林を対象とした研究で演者らは,成長の優れる斜面下腹部の個体は中腹部と比べ葉の窒素含量が高く光合成速度も大きいが,土壌の窒素無機化速度には差がないことを報告した。樹木への窒素供給には,土壌窒素の無機化の他に無機化の基質となるリターフォールも重要である。本報告ではこれまで調査を行ってきた斜面中腹部(上プロット)と下腹部(下プロット)におけるリターフォール量と窒素還元量を比較する。調査の結果,上プロットと下プロットのリターフォール量と窒素還元量には差が見られなかった。ヒノキの成長が劣る上プロットの窒素還元量が下プロットと同程度に多いのは,広葉樹とササが多く侵入しているためだった。このことから,本調査地において窒素無機化速度がプロット間で変わらないのは,リターフォールによる窒素還元量が同等であるためだといえる。上プロットのヒノキ葉の窒素含量が下プロットより低い原因として,上プロットでは窒素がヒノキ以外の広葉樹とササに多く吸収されている可能性がある。