【目的】痕跡観察と分子生態学的手法、法医学的手法、GIS技術を組み合わせ、京都府下におけるツキノワグマ(Ursus thibetanus)の生態を解析し、今後の管理に役立てる。
【方法】京都府綾部市の山塊を調査地として糞便や体毛を採取し、捕獲個体の試料と合わせDNA解析を行い、得られた情報をGIS(ArcGIS 10)によって地図上に視覚化した。植生のGIS解析、糞分析、糞便より回収した種子のDNA解析や、捕獲個体の血漿からRNAを抽出しパイロシーケンスも行った。
【結果】由良川周辺の個体は12系統に分類され、うち2つの系統に属する個体がそれぞれ全個体数の約3割を占め、他は全てこの2系統から派生していた。この2系統は由良川を境界とする傾向がみられたが、雄は境界を越えて相互に侵出していた。糞分析から、この地域では液果や昆虫への依存が明らかとなった。血漿からはアクネ菌(Propionibacterium acnes)の転写制御タンパク質等の配列、アルファレトロウィルスのポリメラーゼ等が検出された。これらの配列の由来は現状で不明だが、獣医公衆衛生的な管理の対象となる可能性も示唆された。