抄録
炭素クレジット売買から得られる利益を、どういう形でどれだけ地域社会・住民に分配すれば、効果的な森林保全インセンティブを生み出すことができるのか。この点はREDD+事業の成否の鍵を握る重要事項である。しかしながら、一般に途上国では地域住民に関する情報インフラが未発達で、最適な利益分配を実現する上で不可欠となる生業や収入実態に関する基礎データも不足している。理論上、REDD+が最も奏功しうるのは森林開拓最前線地だが、こうした地域では特にその傾向が強い。REDD+事業の遂行に当たっては、効率性の追求が重視されている。この観点からも対象住民の生業や収入実態の把握は必須となる。だが、これまでのところ、途上国の試験事業地等で住民に関する上記のような基礎データを緻密に収集し、利益分配についての議論に反映した例は見当たらない。本発表では、カンボジア中部のREDD+試験事業計画地内の住民に対する生業・収入調査の結果から、森林開拓最前線地においてどのような事態が進行中であるのかを明らかにし、それにもとづき、森林開拓最前線地でのREDD+事業が相対せざる得ない利益配分に関する構造上の問題について論述する。