ヒトツバタゴは長崎県対馬と愛知県から岐阜県にかけての東濃地方に隔離分布をしており、環境省のレッドリストで絶滅危惧種に指定されている。東濃地方では孤立した自生地に127個体が自生するのみである。ヒトツバタゴは機能的にも雄性両全性異株であるかは明らかになっていない。雄性両全性異株の多くは機能的には雌雄異株であり、機能的にも雄性両全性異株であると報告されている種は11種のみである。雄性両全性異株の維持には雄株が両性株と比較して2倍以上の繁殖適応度を持つ必要があるとされる。ヒトツバタゴの交配パターンを明らかにすることは保全策を検討する上で必要不可欠である。本研究では、ヒトツバタゴが機能的にも雌雄両全性異株であるかどうか、またどのような交配が行われているのかを明らかにするため、東濃地方の8自生地25種子親553種子を対象にマイクロサテライトマーカーを用いた父性解析を行った。その結果、ヒトツバタゴは機能的雄性両全性異株を示し、種子段階の雄株の繁殖適応度は両性株の約3.57倍であり、自殖率は約3.1%だった。花粉散布距離はほとんどが100m以下であり、また植栽木からの花粉散布が示唆された。