地域の環境を生かした伝統的農業、生物多様性が保全される土地利用、農村文化・景観の維持保全と継承を目的として、国連食糧農業機関は、優れた地域を世界農業遺産として認定している。石川県能登半島は日本で初めて認定された地域の一つである。戦後、農業の近代化が進む中、農業と伝統文化が地域システムとして一体的に維持されてきた背景には、経済的・地理的制約の中で、祭りや神事等の伝統的な行事や料理が、自家用として栽培、採集される多種多様な農作物によって支えられ、人々の日常の暮らしと密接に関わってきたことが一つの要素として挙げられる。本研究では、これまで社会生態学的な観点からの定量的な研究がほとんど行われてこなかった食料の自家消費に着目し、その実態を明らかにすることを目的とする。全国を対象としたウェブアンケート調査からは、全国的にみても能登半島の自家消費が量的・質的に高いこと、さらに聞き取り調査からは、あげる・もらうといった世帯間のやりとりが市場を介さない食料消費に大きく影響していることが明らかになった。また本発表では、認定による能登地方への影響と今後の可能性及び課題について社会・生態学的側面から考察する。