植物体内の水の移動は水ポテンシャル勾配に従う。通常、水が根から幹を経て葉へ安定して移動している定常状態では、末端にある葉の水ポテンシャルは他の器官よりも十分に低い。その一方で、展開している途中の若い葉はとてもしおれやすい。もし若い葉の水ポテンシャルが成熟した葉と同じ程度まで低下すれば、葉の細胞はたちまち膨圧を失って生理活性を失ってしまう。したがって、葉の展開時には水ポテンシャル勾配が形成されにくく、水移動が不安定になる可能性がある。とくに、常緑樹のシュートでは、若い葉より基部側にしおれにくい成熟葉が位置している。この構造は水ポテンシャル勾配の形成をより難しくするはずであるが、勾配を維持するしくみは知られていない。そこで、本研究では展開途中の若い葉の水ポテンシャルと、同時に成熟葉の水ポテンシャルを調べ、若い葉へ水を供給するしくみを明らかにすることを目的とした。常緑樹アラカシを材料に測定した結果、若い葉が展開している最中には、成熟葉の水ポテンシャルが低下せず水の移動を妨げないことが明らかになった。これらの考察は個葉の膨圧維持について、個葉単位ではなくシュート単位で検討する視点を提供した。