従来,樹木木部の水分通導性は,染料注入法や,幹や枝から切り出した試料片で水分通導度を測定することで定量化されてきた.近年新たに,負圧下にある樹木試料の破壊的採取に伴う木部水分通導度の過小評価といったアーティファクトが懸念されているが,その直接的原因は未だ不明である.本研究では,樹幹内部の水分布を非破壊的に観察できる樹木用MRIを用い,乾燥し負圧下にある樹幹を水切りしたときの樹幹内部の水分挙動を可視化し,切断に伴うアーティファクトの有無およびそれが木部内水分布や水分通導性に与える影響を解析した.その結果,ヤマブドウ,イヌシデ,カツラともに,乾燥による二次師部の収縮が水切り後に回復した.カツラでは水切り後に木部内水分布は変化しなかった.一方,ヤマブドウおよびイヌシデでは水切り後に含水領域の減少(道管の空洞化)だけでなく増加(空洞化した道管の再充填)が見られたが,その程度は水切りする部位をMRI部位からその樹種の最大道管長以上離すことで低減された.また,イヌシデの一部の個体では樹幹水切り後数時間経過して道管の再充填が生じたため,水切り後の経過時間についても留意する必要がある.