マツノザイセンチュウのゲノム情報公開より4年、本種病原性をめぐる分子基盤の整備は着々と進みつつある。本講演では、ゲノム情報を応用した研究例として、①古典遺伝学とゲノミクスの融合ならびに②体表タンパク質と分泌タンパク質を標的としたプロテオミクスというふたつのアプローチに基づく病原性規定因子探索のプロセスを紹介する。
①病原性関連形質の大きく異なるマツノザイセンチュウ2近交系を親系統とする組換え近交系セットを用いて、表現型と遺伝子型とのゲノムワイド相関解析を行った。検出された25,814座位のSNPを相関解析に供し、病原力、増殖力、媒介昆虫への便乗力各々に関与する候補遺伝子を見出した。
②マツノザイセンチュウと宿主植物との最初の接触点である体表タンパク質について、宿主感染に伴う質および量の顕著な変化、特に抗酸化および解毒作用をもつタンパク質の生成量が増大することを明らかにした。また、セクレトーム解析により、多数のプロテアーゼや細胞壁分解酵素、宿主類似成分に特徴づけられるマツノザイセンチュウの分泌タンパク質1,515種を同定した。
上記の結果を概説するとともに、今後の研究の展望について述べる。