亜高山帯に生育するコメツガ稚樹の根系には多種の菌根菌が共生しており、各菌種の菌根が1~数cmの幅でパッチ状に分布している。一方、根系周辺の土壌中には菌根を形成していない菌根菌種が多数存在していたり、菌根を形成している菌種が別種の菌根の周辺にも存在していたりするなど、土壌中における菌根菌の分布は根系における菌根の分布と対応していない。このような分布の形成要因を解明するため、宿主からの炭素供給の有無や土壌中の根外菌糸体量が菌根形成に及ぼす影響を調べた。コツブタケ属菌の菌根を形成させたクロマツ苗を、20 μmメッシュバッグに入れて根箱の左側に移植した。移植から20日後または30日後にメッシュバッグの中から菌根苗を除去し、根箱の右側に無菌根のクロマツ苗を移植した。対照として、菌根苗を除去せずに無菌根苗を移植した。移植10日後に無菌根苗の菌根形成数を比較した結果、菌根苗除去によって菌根形成数が有意に減少したが、栽培日数の違いによる影響は見られなかった。このことから、新たに菌根を形成した菌種は、宿主から炭素供給を受けることで周囲の根端に優先的に感染し、パッチ状の菌根分布を形成するものと推測される。