多雪山地の落葉樹林では、消雪時期が林冠木の開葉時期よりも遅く、林冠木の展葉後に下層植生が開葉する傾向がある。このような遅い消雪時期が落葉樹の実生・幼樹の発芽・開葉時期や生残過程に及ぼす影響についての知見は集積されていない。ここでは、多雪山地である八甲田連峰のブナ林内の2地点(低標高区:標高450m、高標高区:880m)に帯状区を設定して消雪日およびブナ林冠木・当年生実生の開葉日と春~秋の実生生存率を調査し、消雪期間(林冠開葉から消雪までの期間)の標高変異と局所的変異が実生の生残に及ぼす影響を分析するとともに、子葉開葉期間(消雪から開葉までの期間)に作用する自然選択について検討した結果を報告する。小区画(6.25m×2m)ごとの消雪期間は高標高区の方が低標高区よりも長く、中央値でみると19日間長かった。両区ともに消雪が遅い小区画ほど実生生存率が低くなる傾向が認められた。また、子葉開葉期間が長い実生ほど生存率が低くなる傾向も認められた。多雪山地のブナ林では、消雪が早いサイトで実生が生残しやすいこと、さらに、子葉開葉期間を決める形質に対して開葉が早まる方向に自然選択が作用していることが示唆される。