地球温暖化により森林樹木は水平方向(緯度・経度)あるいは垂直方向(標高)に分布移動すると考えられる。しかし、実際の分布移動動態のメカニズムは不明な点が多い。そこで本研究では温暖化影響評価のモデル樹種として冷温帯~亜高山帯の主要構成種であり、国内では約3000mの標高差で分布するダケカンバ(Betula ermanii)に着目し、現在の遺伝構造や過去の集団動態を明らかにすることを目的とした。まず四国~北海道の計55地点のダケカンバ集団を対象とし、18地点では標高別の集団も採取し、葉緑体DNAおよび核DNAの多型を用いて集団遺伝学的解析を行った。さらにこれらデータをユーラシア大陸のカバノキ属種を対象とした先行研究(Tsuda et al. 2017)とも統合し詳細に解析した。加えて移住率を考慮した種分布予測モデル(Nobis and Normand 2014)をさらに改変し、ダケカンバを含む複数のカバノキ属種について過去の分布復元および将来の気候変動下での分布を予測した。以上の結果を統合し、近縁種ウダイカンバ(B. maximowicziana)の先行研究(Tsuda et al. 2015)の再解析や結果の比較も踏まえ幅広い時空間スケールでカバノキ属種の歴史や今後の分布適応動態について議論する。