近年、乾燥地における砂漠を観光資源として活用する動きが起きている。しかし、砂漠観光が乾燥地の脆弱な社会・生態システムに及ぼす影響については未解明である。本研究は、砂漠観光地として比較的長い歴史を持つモンゴルのフグンタルン国立公園を事例とし、砂漠観光が地域に与える影響を示すことを目的とした。
地元住民58名、観光客44名、公園のレンジャー1名、地元政府の国立公園担当1名に対し、対象地域での環境変化とその原因に関する聞き取り、及びSemantic Differential法による草原景観の価値認識調査を行った。
その結果、オーバーツーリズムにより土地劣化が顕在化していることが明らかになった。例えば、観光用に集められたラクダによる樹木の食害と倒壊、観光用燃料のための樹木の伐採、樹木の減少に伴う砂丘の拡大と水場の減少などである。さらに、行政、観光業者、観光業を始めた牧民、通常の牧民、観光客といったステークホルダー間で、問題に対する認識が異なることも明らかになった。また、牧民に比べ観光客の草原に対する価値認識が低いことが確認された。今後、ステークホルダー間の合意形成の場や、地域知に基づく観光客の啓蒙が必要であると考えられた。