母島列島のオオバシマムラサキには複数のエコタイプが存在し、複雑な遺伝構造が形成されていることが示唆されている。本研究では母島列島から網羅的にサンプリングを行い、SSRマーカーを用いて詳細な遺伝構造を明らかにした。さらに、各エコタイプの開花フェノロジー調査、人工授粉実験、自然受粉種子の交雑率の推定を行い、交配隔離の程度を明らかにした。STRUCTURE解析と表現型から、母島列島では4つのエコタイプがあると考えられ、それらをDry(乾燥した崖)、Edge(尾根)、Glabra(湿性林、葉の星状毛なし)、Tall(湿性林、葉の星状毛あり)と名付けた。開花フェノロジーはDryが夏と秋の二度咲、EdgeとGlabraが夏咲、Tallが秋咲であった。人工授粉による結果率はエコタイプ間81.3%、エコタイプ内85.0%とほぼ同じであった。自然受粉種子の交雑率は全体で28.9%であり、開花フェノロジーが重なるエコタイプ間の交雑率が高い傾向にあった。母樹間の父性相関には開花フェノロジーの重複度や空間分布が寄与していることが示唆された。母島列島のオオバシマムラサキのエコタイプ間の交配隔離は限定的であり、ある程度の交雑が生じていることが明らかになった。