日本森林学会大会発表データベース
第132回日本森林学会大会
選択された号の論文の645件中1~50を表示しています
学術講演集原稿
  • 安村 直樹, 横田 康裕, 永田 信, 立花 敏
    セッションID: A1
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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     宮崎県は、策定中の第8次宮崎県森林・林業長期計画においてスギ苗木生産量が2019年568万本から2030年700万本に増加することを見込んでいる。増加の主体は146万本から300万本の変化を見込むコンテナ苗である。同期間の再造林面積は2,134haから2,200haの微増が見込まれている。人口減少に伴って林業就業者数は減少すると考えられるので、苗木生産や植林においては省力化や労働生産性向上が求められる。そこで本研究では宮崎県における苗木生産、植林に必要な労働力や人工数について、特にコンテナ苗に着目しながら、現状を把握することを目的にした。まず宮崎県環境森林部、宮崎県緑化樹苗農業協同組合、宮崎県森林組合連合会に対して林業用苗木生産、植林の実態に関する聞き取り調査を2020年10月から11月にかけて実施した。次いで、宮崎県内121のすべての林業用苗木生産者、植林を主に担う宮崎県内17の森林組合・支所を対象に、経営概要や労働力過不足状況等に関するアンケート調査を2020年12月から2021年1月にかけて発送した。聞き取り調査からは穂木自体及び穂木調達労働力の不足、植林や下刈りの労働力不足といった現状を把握できた。

  • 尾分 達也, 藤掛 一郎
    セッションID: A2
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    南九州では民有人工林の主伐面積が増加している一方、その後の再造林が行われない事例が見られる。人工林資源縮小を防ぐためにも再造林率を高める必要がある。本研究では、再造林の主たる担い手である森林組合を対象に、南九州7組合における再造林の現状について、事業担当者への聞き取りを行った。また、森林所有者に提示する再造林(地拵えと植栽)事業の見積書や請求書を4組合から入手し、標準的なケースを設定し試算した。その結果、所有者の実質的な負担は、地方単独補助まで含めれば事業費の5%であった。見積・請求書を得られなかった3組合は、所有者に再造林の手出しがない条件で、主伐から再造林までの契約をしていた。いずれも所有者の負担はほとんどないと言えるが、そのためには、国県が定める標準経費を元に出される補助金に対し、実際の事業費を抑える手法が取られており、実際の事業費は標準経費の8割程度であった。特に、組合経費や労賃が圧縮されていた。しかし、造林作業班の労賃が低く抑えられた結果、造林作業の担い手確保が困難になっていると考えられた。森林所有者の意識を変えること、補助金額や標準経費の適正化が求められる。

  • 嶋瀬 拓也
    セッションID: A3
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    近年、木材市場の季節変動に関する研究が進展をみせている。しかし、研究の多くは針葉樹一般材(製材用素材)を対象とするもので、広葉樹材が中心の銘木についてはまだほとんど未解明のため、需要拡大や高付加価値化の観点から解明が待たれている。そこで本研究では、銘木市の事業実績に関する月次データを用いて時系列分析を行い、市場の構造と特徴を明らかにするとともに、望ましい生産・出品のあり方を考察した。旭川林産協同組合北海道産銘木市の2014年4月(第375回)から2017年3月(第404回)まで5年(50回)分のデータを用いて、季節調整により季節変動成分(季節性)を抽出し、分析した。その結果、①季節性の波は、出品量と単価では冬に山、元落率では冬に谷を迎える、②季節性による振幅の大きさは、出品量と元落率が同程度で、単価はこれらに比して小さい、③出品量が増加する時期に元落率が低下し、単価が上昇するため、売上金額の振幅は出品量よりさらに大きいなどの点が明らかになった。より高く、より確実に売るためには、秋、樹液流動停止期に入ってから伐採をし、その後、年末までに出品することが有効と考えられた。

  • 樋熊 悠宇至, 立花 敏
    セッションID: A4
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    国産材の利用拡大を考えるにあたって、国産丸太供給量のうち最も高い割合を占める針葉樹製材用丸太の需給特性を明らかにすることは有意義である。これまで、多くの研究が計量経済学の理論に基づいた丸太需給モデルを構築してきたが、木材市況の変化や近年の計量経済学の進展に対応して研究手法を深化させることが必要である。海外では、Parajuli and Chang(2015)、Zhang and Chang(2017)のように、時系列データの定常性に注意しつつ、環境保護や金融危機などを契機とした丸太市場の構造変化を考慮したモデルの推定が数多く行われている。他方、日本の林産物需給に関して、時系列データの定常性を考慮した研究は行武ほか(2003)に限定され、2002年以降の国産材の供給拡大局面を分析期間に含めた研究も藤掛(2016)などに限られている。本研究では、データの定常性を考慮しつつ、国産材の供給拡大局面を含めた1960~2018年を分析期間として、国産針葉樹製材用丸太の需給モデルを推定することを目的とした。農林水産省「木材需給報告書」などの統計データを用いて単位根検定や共和分検定を行い、モデルを決定した。

  • 石原 昌宗, 市野瀨 愛, 佐藤 宣子
    セッションID: A5
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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     2011年の原発事故の影響により、北関東地域のシイタケ原木産業は壊滅的な被害を受けた。原発事故後のシイタケ生産については樹木や森林に関する自然科学的な研究は盛んだが社会科学的な観点からの研究は少ない。山本美穂氏が原発事故後の栃木県のシイタケ原木の調達構造に関する研究で栃木県のシイタケ原木調達先として大分県が大きな割合を占めていることについて言及している。本研究では大分県がどのようにしてシイタケ原木を栃木県に送ったのかを把握することを目的とする。調査方法として大分県庁、大分県森林組合連合会、玖珠郡森林組合で資料収集と対面調査を行った。調査結果として、大分県では県森連が栃木県への原木移出を取りまとめたこと、原木供給を担った森林組合は直営の作業班が生産した組合と組合員が生産した原木出荷による集荷した組合に分けることができること、前者に比べ後者の方法による玖珠郡森林組合では原木出荷が安定していたこと、栃木県へのクヌギ移出によって大分県内のクヌギ林の更新が進んだことが明らかとなった。クヌギ林所有者とシイタケ原木生産者の就業実態、県内へ出荷するシイタケ原木との競合の有無等については今後の課題である。

  • 藤原 敬
    セッションID: A6
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    管総理は所信表明演説で2050年には温室効果ガス排出量ゼロと宣言し、国会で相次いで気候異常事態宣言(19日衆議院、20日参議院)がされ「もはや地球温暖化問題は気候変動の域を超えて気候危機の状況に立ち至っている」といわれるが、その道筋はあきらかになっていない。今後自治体、企業家がゼロエミッションの取組を進める過程で、森林や木材の炭素固定機能に関する取組をクレジットとして提供するシステムが大切な役割を果たすと思われる。しかし、国が関与している、Jクレジットは森林分野について、植林活動と森林経営活動の二つの手法(方法論)を提起しているが、都市の木材建築物に炭素が固定されて都市の森林になる、といったストーリーがクレジットの方法論にまだ反映されていない。

    近年、建築基準法の改正などで中大規模建築の木材利用が進む方向になっている。中大規模建築物の木造化が進んだ場合、炭素吸収量の増大として認定する可能性について、他のJクレジットの方法論の手法と比較して検討する。

  • 立花 敏, 松永 佳奈子
    セッションID: A7
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    本研究の目的は、製材工場がスクリュ式小型蒸気発電機(MSEG)を導⼊し、余剰蒸気を利⽤して発電することが二酸化炭素排出削減にどの程度寄与するか、製材工場の規模等によって経済的利益がどの程度あるかを明らかにすることである。この研究結果は現段階でMSEGを導入していない製材工場が木質バイオマス設備を導入する際の判断材料に資すると考えられる。研究対象はMSEGメーカーのS社、MSEGを導入している製材工場のT社、F社、G社の合計4社とし、方法として聞き取り調査と電子メールによる調査、文献調査を用いた。また、経済効果は初期費用回収年数、二酸化炭素排出削減量はMSEGによる発電で代替される燃料から発生する二酸化炭素量とした。その主な結果として、①MSEGの性能面に制約があるため、単純に規模を大きくしても発電量や収益性は増加しないこと、②発電量はMSEGの年間稼働日数に大きく影響されること、③ルールや手続きの煩雑さという課題はあるが、FITによる売電を行うことにより初期費用回収年数は短くなること、④初期費用回収年数は受ける補助金の割合により影響を受けることが明らかとなった。

  • 陳 碧霞, 草島 勇斗
    セッションID: A8
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    フクギを主な樹種とする屋敷林は沖縄の独特な集落景観を形成し、約300年前の琉球王府時代に成立したと考えられているが、現在では減少の一途をたどっている。本報告は、フクギ屋敷林の老木に蓄積されている二酸化炭素の量を試算した。本研究の目的は、炭素貯蔵量から、フクギ屋敷林の生態学的機能とそれらの経済的価値を明らかにし、これからの有効的保全策を提案したい。

    2009年から2018年まで、研究チームは沖縄県内の10個の集落における23,518本のフクギの胸高直径(DBH)と樹高を測定した。10個の集落でのフクギ屋敷林に貯蔵された炭素の総量は6089t-CO2であった。 この量は、日本の40年生のスギ(Cryptomeria japonica)人工林の森林の炭素固定昨日に換算すると、約20.9ヘクタールのスギ林の炭素蓄積量に相当する。 さらに、40年生のスギ林の植栽と管理のコストの観点から、フクギ屋敷林の推定経済価値は2497万円に相当する。 この研究により、整然としたフクギ並木は密度が高いため、それらの炭素の蓄積、および気候変動の緩和へ貢献の可能性が高い。

  • 高野 涼
    セッションID: A9
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    全国各地で導入が進むメガソーラーについて,売電収入などの利益は地域外に流れる一方,環境破壊などのリスクを地域にもたらす問題が懸念されている。こうした中,土地利用の適正化と再エネを農山漁村の活性化につなげることを目的として,平成26年に農山漁村再生可能エネルギー法が施行された。本報告では,農山漁村再エネ法のスキームを活用してメガソーラーの導入を進める岩手県軽米町を事例に,同法の運用実態と課題について報告する。分析視角として,メガソーラーが抱える問題点を農山漁村再エネ法を活用することで軽米町がどのようにクリアしたのか,またはできなかったのかに注目して分析を行った。軽米町では5か所合計で出力200MWを超えるメガソーラーが建設され,森林の開発面積は300haを超える。同町では,森林の開発面積に上限を設ける,売電収入の一部を基金化して地域活性化の取り組みに活用するなどの工夫がなされたが,開発面積の上限は森林面積の10%(1,800ha)と広い一方,基金は売電収益の1%に留まるなど,その効果に疑問を抱くものであった。地域の将来像と再エネの位置づけを明確にした上で,森林の管理費を社会化することが求められる。

  • JIAZE TAN, 立花 敏
    セッションID: A10
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    Zhang et al. (2006)やTan et al. (2020)をはじめ、森林資源と社会経済の関係に関する実証分析は少なくないが、従来の研究では時系列データの持つ非定常性に関する対応が十分には行われていなかった。非定常過程のまま回帰分析を行うと、本来は関係ない変数同士の組み合わせに誤った関係を見出してしまう「見せかけの回帰」が発生する恐れがある。そこで、本研究では中国を事例とし、30の省・自治区・直轄市における森林面積、1人当たりGDP、人口、丸太輸入量を変数とし、まず1993~2018年の時系列データを用いて定常性や変数間の共和分関係の検定を行った。その結果を踏まえ、2変数および3変数によるベクトル自己回帰モデルとグレンジャー因果性の分析を用いることで、分析の精緻化を図った。さらに、分析対象期間の長さを考慮して、この間に構造変化が発生したかどうかについても検討した。これらの分析を行うことにより、中国における森林面積と社会経済要因との関係性に関する再検証と、その結果を踏まえた地域性の考察を行った。

  • 宮本 基杖
    セッションID: A11
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    熱帯林減少を止める取組が、気候変動緩和策として注目され、国際的に推進されている。しかし、当初期待されたほどの成果に至らず、地域社会への影響など懸念の声もある。そこで、私たちの25年間の実証研究と世界の先行研究の成果を用いて、森林減少の仕組みを分析した。その結果、発生メカニズム「高い貧困率、高い農業地代(農業の土地収益性)、高い森林率の3条件が揃うと、森林減少が発生する」と制御メカニズム「低い貧困率、低い農業地代、低い森林率のいずれかの条件が存在すると、森林減少が抑制される」を明らかにした。両メカニズムは論理式で示され、後者は前者の対偶である。これをもとに対策を検討した結果、1.現行の対策(保護地域の設置拡大、農地開発の停止、農業分野への規制など)は、農業地代を下げる対策が主流である。2.農業地代低下策は、即効性があるものの、高い代償を必要とし、当該国に経済打撃と貧困拡大のリスクが高く、持続性が低い。3.貧困削減策は、森林減少を止める効果的かつ持続的な解決策となりうる。世界の森林減少対策は抜本的変革が求められており、対策の主軸を農業地代低下策から貧困削減策へと移すことが必要である。

  • 石崎 涼子, 鹿又 秀聡, 笹田 敬太郎
    セッションID: A12
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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     市町村には森林に関する基礎情報の整備や施業監督などの重要な権限が与えられているが、それら業務を担う体制が十分ではないケースが多く、市町村森林行政の業務と体制のギャップが懸念されている。そうした市町村森林行政の体制整備のあり方を検討するための基礎情報として、総務省統計を用いた職員数の長期推移の把握とアンケート調査を通じた実人員および業務範囲の把握・分析を行った。

     その結果、市町村における林業部門の職員数は、1970年代後半から1980年代前半まで職員数が緩やかに増加した後、1990年代半ばまで横ばいで推移したが、1990年代後半、市町村森林行政の役割が大幅に拡充された時期から10年間で3割減と大幅な減少に転じたこと、近年、森林環境譲与税と森林経営管理制度の創設を機に一部市町村で職員数が増加しており、全国の職員数は対前年度比で約1%増となっていることなどが明らかとなった。

     2020年11月から12月にかけて全国の市町村森林行政担当者を対象にアンケート調査(回収率53%)を行い、さらに詳細な体制と業務の関係について把握した。

  • 大塚 生美
    セッションID: A13
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    素材生産量が全国3位にある岩手県下33の全市町村を対象に「新たな管理システム」に関わる質問紙調査(2020年3月メール添付により依頼)を実施した。既に明らかなとおり,市町村の林務職員数は極めて少なく,岩手県でも33市町村のうち21市町村が1~3人であった。多くの市町村は,森林環境譲与税の使途に,森林所有者の意向調査に充てることを考えている。脆弱な組織体制から,こうした経営管理実施権に向けた手続きは,外部に委託せざるを得ない傾向にある。森林経営管理法では,森林所有者の意向に基づき「林業経営に適した森林」と「林業経営に適さない森林」に区分し,前者は再委託し,後者は市町村自ら管理することとされた。だが,林業経営に適しても適していなくても市町村が自ら施業を行うことは困難であり,ここでも委託せざるを得ないのが実態である。アンケート結果から,市町村自ら森林所有者の意向調査に着手した例,委託により進めている例が明らかになっている。本報告では,そうした違いに至った要因について,アンケート調査後のフォローアップ調査に基づき,代表的事例から経営管理実施権を巡る初動について述べたい。

  • 岸岡 智也, 内山 愉太, 三宅 良尚, 香坂 玲
    セッションID: A14
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    都道府県の独自課税として導入されている森林環境税を活用して実施されている野生動物保護管理を目的とした事業が、都道府県における野生動物保護管理予算の中でどのような位置付けを持っているのかを明らかにすることを目的とし、都道府県の森林環境税の中で野生動物保護管理に関わる事業を設定している各自治体での活用実態を公開情報をもとに整理し、さらに事例自治体への聞き取り調査を行った。その結果、森林環境税を導入している37府県のうち、17県で野生動物保護管理に関連した事業が実施されており、主に特定鳥獣管理計画策定に関わる調査、緩衝帯整備、個体数管理に関わる事業が多くの自治体で実施されていた。対象種もニホンジカ、イノシシを中心に、ツキノワグマ、ニホンザル、カワウと多岐にわたっていた。また県の担当者は、森林環境税の野生動物保護管理事業への活用は、市町村域を超えて広域的に実施する必要のある事業に充てることができる点で有効であると評価しているなど、野生動物保護管理において都道府県に求められる役割を果たすうえで重要な財源のひとつとなっていることが明らかになった。

  • 香坂 玲, 内山 愉太
    セッションID: A15
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    森林環境譲与税(環境譲与税)が2019年度に導入された。その主体と想定される市町村では受け皿となる人材不足等が課題であり、その支援のため都道府県の役割も重要となる。本研究では都道府県を対象とし、その市町村支援について、関連組織・会議体や人事交流、市町村向けのガイドライン等について概況を把握した。関連支援組織では6県で独自にセンターを設置し、人事交流を行う10府県も存在し、県と市町村の職員を併任する制度を導入した事例(愛媛県)も把握された。更に森林経営管理制度または森林環境譲与税の活用方法に関する市町村向けのガイドラインが17府県で作成されていた。府県のコンテクストとして市町村数や私有林人工林面積率は、市町村との情報交換の会の設置状況と相関があり、譲与額は、人事交流及びガイドラインの策定状況と相関があった。環境譲与税と府県単位の超過課税の整理は、主に間伐等の物理的な森林整備において府県間で異なる対応が把握された(各府県単位で使途や背景に差異があるため単純な比較には限界もある)。今後は使途の公開が本格化するなかで、両税と森林整備の進捗との検証が必要となる。

  • 土屋 智樹, 山下 詠子, 関岡 東生
    セッションID: A16
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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     近代日本における木炭業界の発展には、木炭検査制度が寄与している。当時の木炭検査制度は、民営検査から公営検査に移行されていった。この民・公各主体による木炭検査は、各機関に所属する木炭検査員によって遂行されたが、この木炭検査員に注目した研究は乏しく、資料も散在している。本研究では、調査の結果得られた群馬県吾妻郡木炭同業組合の木炭検査員である黒岩嘉太郎の「勤務報告」(1927-1930年)・「検査日誌」(1924年)・「製炭地巡視報告」(1929年)を主軸とし、木炭検査員の業務の把握・整理を行った。その結果、木炭検査員の業務は、木炭検査および製炭指導を主としていたこと等を明らかにすることができた。また製炭者に対して展覧会への出品を推奨する奨励事業にも携わっている。そして、木炭検査員の能力向上、あるいは木炭検査員の養成のために開催される講習会に参加するなど、木炭検査員には検査業務以外の業務も求められていた。これら業務を通じて製炭関係者や同業者との繋がりを形成していたと推察され、木炭業界の展開過程において看過することができない存在であることが再確認された。

  • 石 佳凡, 納富 信
    セッションID: A17
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    適切な森林管理の促進には、森林整備や木材生産を担う様々な林業関係者が其々の役割を十分に果たす一方、関係者間の連携も求められている。本稿では、群馬県・埼玉県内の三つの林業地の林業関係者に聞き取り調査を実施し,林業関係者の役割と“カネ”“ヒト”“業務”“情報・知識“に関する情報を整理することによって林業関係者間の関係構造の特徴を考察した。群馬県A地は山間部にあり、豊かな森林資源を活かした地域創生に取り組んでいる人口規模が小さい地域である。小規模ゆえの“顔の見える関係”から、地域では多くの交流場面があり、林業組織も小規模ながら自律性と互助性を有している。それに対して埼玉県B地は、森林面積が広く林業の規模も大きな山間地域であることから、林業組織は多数存在して常に競合関係にあり、協議会を介して関係性を維持・調整している。さらに埼玉県C地は、相対的に都心部に近く林業が主な産業では無いことから、地元の林業会社が素材生産と人材育成を中心的に担っている。森林組合は役所からのサポートを得ながら従属的に活動する状況にあるが、林業関係者間の調整は森林組合の職員一人が中心的に担っているところに特徴がある。

  • 松下 幸司, 高橋 卓也, 仙田 徹志, 山口 幸三, 吉田 嘉雄
    セッションID: A18
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    生産森林組合(以下、組合)の数は1996年度には3,482組合あったが、その後減少し、2018年度には2,844組合となった。組合の事業実施状況の変化を経営面積の規模別に明らかにするため、森林組合一斉調査の生産森林組合調査票について個票の組み替え集計を行った。2011年度、2017年度ともに、経営面積が大きいほど施業実施率、林産物の販売実施率は高い傾向にあった。2011年度から2017年度にかけての施業の実施状況の変化をみると、新植・保育・間伐の実施率は低下した。主伐については、実施率は低いながらも若干上昇した。新植・保育・間伐を実施した組合数が減少したため、何らかの施業を実施した組合の数は大きく減少した。林産物販売の実施状況の変化をみると、立木、木材、きのこ類を販売した組合数に大きな変化はなかった。集計対象となる組合数が減少したため、林産物の販売実施率は上昇した。本報告は京都大学学術情報メディアセンター内に設置された農林水産統計の高度利用に関する研究専門委員会における研究成果の一部で、JSPS科研費JP20H03090の助成を受けたものである。生産森林組合調査票の個票使用にあたり、農林水産省統計部にお世話になった。

  • 山下 詠子, 林 雅秀, 片野 洋平, 高村 学人
    セッションID: A19
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    1966年に施行された入会林野近代化法と同法に基づく入会林野整備事業は、当初の10~20年間は大きな成果を上げたが、その後の整備実績はわずかにとどまり、事業としてはほぼ役割を終えている。一方で、昨今の所有者不明土地問題を契機として新たな法制化が急速に進みつつあり、多数人による記名共有名義など入会林野の複雑化した権利関係を整理するための制度が増えてきている。

    本研究では、これらの新しい土地法制が入会林野に与えるインパクトを検討するために、入会林野整備事業の実施状況をもとに、入会林野の登記名義の現状を明らかにする。都道府県別に、入会林野整備事業開始前の入会林野の数・面積、入会林野整備事業の実績(整備認可数、整備対象入会林野に占める認可面積の割合、整備後の経営形態と利用方法)、また生産森林組合の解散状況等のデータをもとに、都道府県による入会林野整備事業への取り組み内容と登記名義への影響を整理する。対象となる入会林野面積にかかわらず、都道府県によって整備実績や整備後の経営形態には大きく差があったことから、整備実績が異なる都道府県における登記名義にかかわる課題を整理する。

  • DENG WEN, hyakumura kimihiko
    セッションID: A20
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    中国には多くの自然保護地が存在し、自然資源の保護と開発に効果を果たしたが、その管理は異なる政府部門に分散されており、各保護地体系の領域が重複して設置されているなど問題点が存在していた。このため中国政府は、2013年から自然保護地体系の改革を始めたが、その過程について明らかにした研究は少ない。

    本研究では、中国の国家公園を対象に、自然保護地体系で実施された改革のプロセス及び国家公園建設の政策の変遷を明らかにする。調査は、中国政府が発布した自然保護地体系の改革に関する政策文書、論文や新聞記事などの文献レビューを行った。

    20世紀末に雲南省政府が「national park」の概念を導入したのが国家公園建設の萌芽であったが、国レベルでの国家公園の設計は2013年からであった。その後、2015年から2020年までの間に国家公園体制の試行も実施された。2018年に林業及草原局が、保護地体系を包括し国家公園の管理局として設立された。国家公園建設の手法として、統一的な管理を実施し、自然保護地体系を再構築していくことが分かった。

  • 田村 典江
    セッションID: A21
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
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    送粉サービスは生態系サービスのひとつであり、野菜・果実の生産など食料生産に大きく寄与している。近年、世界中で送粉者が急激に減少しており、送粉者保護に向けた政策転換の必要性が指摘されている。送粉者には、昆虫類、鳥類、哺乳類など多様な動物が含まれるが、ハチ類昆虫は代表的な存在である。なかでもミツバチは野生・飼育の双方で送粉に貢献するほか、ハチミツ等の生産など、ヒトと多様な社会経済的・文化的関係を築いている。

    先行研究から、日本のミツバチは森林の樹木蜜源を多く利用していることが知られている。したがって、ミツバチ保全には森林管理制度からも働きかけが可能と考えられるが、これまで、ミツバチや養蜂の視点から森林管理制度について検討した事例は少ない。そこで本研究では文献およびインタビュー調査により、既存の森林管理制度と養蜂の関係を整理し、蜜源植物保全との重複について検討した。

    調査の結果、国有林・民有林ともに既存制度を活用した蜜源植物保護活動があることが分かった。また、主要蜜源樹種と林業における重要樹種に重複がみられることが分かった。「ミツバチの森づくり」は今後の森林管理の目標像となりうると考えられる。。

  • 坂野上 なお, 石原 正恵, 徳地 直子
    セッションID: A22
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     京都府南丹市美山町およびその周辺市町におけるトチノキの資源利用の現状について,文献調査および聞き取り調査を行った。美山町芦生地区では,京都大学芦生研究林内のトチノキ林を利用した地元住民によるトチモチづくりが数世帯で受け継がれているものの,その消費は家庭内にほぼ限られ,世帯間での共同作業や情報交換はほとんど行われていない。一方南丹市美山町内の他地区や,隣接する綾部市,滋賀県高島市には,集落内に加工所を設け,トチモチ加工および販売を手がけるグループが複数ある。これらのグループは,生活改善運動や地域おこし運動の高まりから結成された。トチノミそのものだけでなくアク抜きに必要な木灰や人的資源の確保など課題も多いが,地域を越えた材料調達やボランティア人材の活用,ネットを利用した情報発信などにより活動の幅を広げてきた。これに対して芦生地区では,山菜加工会社が運営されるなど集落における経済活動の基盤がほかにあったため,トチノキ資源は豊富に所在するものの,トチモチづくりの共同化や商品化には向かわず,あくまでも世帯毎に伝える文化として受け継がれてきたと考えられた。

  • Shibata Shingo, Tsuge Takahiro, Takahashi Takuya
    セッションID: A23
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    日本の森林所有者を対象に生態系サービスの提供についてのアンケート調査を実施したので、その結果を報告する。森林の保有・管理の目的としては、木材生産、水資源の保全、相続、自然や生物多様性の保全、美や景観を楽しむが上位であり、木材生産とそれ以外との複数を目的とする者が大半を占めた。また、自己森林が果たしていると考える相対的に重要な機能としては、土壌の流出防止、災害防止、水質の確保、木材生産、水量の確保、きれいな空気、二酸化炭素吸収が上位であった。

    一方、生態系サービスへの支払いを受けている者は2割に満たないが、7割以上の者が関心を示している。森林サービス産業について期待している者は6割である。また、7割近くの者が、レクリエーション利用等への林地の開放について、すでに実施しているか前向きに考えている。

    さらに、仮想評価法を用いて観光、健康増進、教育的な利用についての受け入れ額を尋ねたところ、それぞれ平均で18.9万円/ha、15.3万円/ha、18.4万円/haとなり、保有・管理面積や森林サービス産業への期待と正の相関が見出された。

  • 林 雅秀, 八巻 一成
    セッションID: A24
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     農山村地域での獣害は農林業被害が中心だったため、利害関係者は限定的であった。しかし、都市近郊における獣害の利害関係者は農山村地域よりも多様だと考えられる。そこで本研究は多様な住民による獣害対策への考えを明らかにすることを目的として住民意識調査を実施した。具体的には、森林総合研究所多摩科学園来訪者(質問紙調査による)とLINEモニター(オンライン調査による)を対象として、大型哺乳類の目撃頻度、印象、被害の重大さ、必要と考える獣害対策を尋ねた。

     データ分析の結果、必要な対策としての、「自然にまかせる」または「柵設置」については、すべての動物種について科学園来訪者のほうが必要と考えていた。駆除については、イノシシとニホンザルについてLINEモニターのほうが必要と考え、ニホンジカについては科学園来訪者のほうが必要と考えていたことなどが分かった。このように、都市近郊住民でかつ森林や自然についての関心が比較的高いと推察される森林科学園来訪者とLINEモニターでは、獣害対策として何が必要かについて異なる考えを持つことや、動物種によっても必要と考える獣害対策が異なることが分かった。

  • 八巻 一成, 林 雅秀
    セッションID: A25
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    シカの管理には複数の自治体や機関が関わっており、対策を効果的に推進していくためには、関係者間の密接な連携協力関係の構築が重要と考えられる。そこで、北海道札幌市郊外に位置する野幌森林公園を対象に、エゾシカ対策に関わっている関係者の社会ネットワーク構造を把握した。調査は2019年11月に実施し、29部を回収した(回収率100%)。社会ネットワーク解析の結果、関係者間のつながりは中心の密なネットワークと、その周縁部に位置する疎なネットワークによって形成されていることが明らかとなった。連携協力関係の現状について聞いた結果、中心部の関係者の方が周縁部よりも評価が低かった。これは、つながりが密な中心部では、組織や立場が異なる関係者との関係構築が求められており、連携協力をめぐる現実的な課題に直面しているためであると推察された。以上のことから、連携協力関係の構築をさらに進めていくには、中心と周縁の間のつながりを醸成するとともに、多様な関係者間の円滑な連携協力関係を構築していくことが重要と考えられた。

  • 平山 智貴, 佐藤 宣子
    セッションID: A26
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    総務省の2019年度における移住相談に関する調査結果によると、移住相談は約35万件にのぼり年々増加傾向にある。また都市部から移住した先で林業に従事し、新たな森林管理の担い手・労働力として注目を集めている。これまで林業分野では移住者の受け皿として森林組合や民間林業事業体へ雇用するという報告は多いが、森林関連のNPO法人については研究が見られない。本研究は、熊本県阿蘇市で活動し施業受託面積を増加させているNPO法人ふるさと創生を事例に、林業に従事する移住者とそれを支援する森林NPOの役割を明らかにすることを目的とした。調査方法は同NPO法人と阿蘇市への移住者5名に資料収集と聞き取り調査を行った。調査の結果、地域林業の担い手が減少していた中で、東日本大震災後に関東圏からの移住者が阿蘇に多く集まり林業が就業の選択肢になり、5名のうち4名は直接雇用ではなく個人事業主として独立し施業委託という形で支援されていることが明らかになった。また、成熟した人工林が存在し土地を持たずとも十分な施業地と収入が見込めたこと、広域合併した森林組合ではなくNPO法人ゆえに移住者各人の事情に合わせた施業委託が可能になっていることが示唆された。

  • 内山 愉太, 香坂 玲
    セッションID: A27
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では、新型コロナウィルス感染拡大にともなう日本で最初の緊急事態宣言期間に、森林や山地への一般市民の訪問状況を分析した。特に、訪問行動と相関のある個人属性等を探索的に解析した。具体的には、愛知県を対象として、大規模なオンラインアンケート調査(n=1,244)を実施し、回答者の社会経済的属性、環境要素(住宅地周辺の土地利用パターンなど)、および森林に対する意識を分析した。結果、環境要素が、住民が山地や森林を訪れることを促す基礎的要素となっている可能性を示唆した。森林のある郊外部はそのような環境要素が存在し、山地・森林を訪れた住民は郊外部に住んでいる傾向がみられた。訪問者の意識については、森林機能への期待が、訪問行動と相関のある一つの要素として把握された。山地や森林を訪れた住民は、森林の精神的・教育的機能に比較的高い期待を寄せていた。居住地周辺の環境等の要素はそのような期待を持つことを促す可能性が考えられるが別途検証が必要であり、今後の課題である。

  • 高橋 卓也, 内田 由紀子, 石橋 弘之, 奥田 昇
    セッションID: A28
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    人びとのウェルビーイング(厚生、幸福)の向上は資源管理の究極の目標だと考えられるが、森林政策の指標として明確に検討されたことはなかった。政策指標としての有用性を評価するため、滋賀県野洲川流域における森林に関連した主観的幸福度(森林幸福度)測定の解析結果を検討した。2016年と2018年の調査より、森林幸福度に回答者間で相当の違いがあること、森林幸福度と森林所有との間の負の相関、森林関連活動(森林レクリエーションや森林管理)との間の正または負の相関が確認できた。森林幸福度と森林所有の間の負の相関は、現在の森林が資産として価値が低いことを反映していると考えられる。これらの結果から、森林幸福度を従来の物理的・客観的政策指標(整備森林面積、木材生産量など)を補足する指標として提案する。その根拠は次の四つである。①GDPなどの市場経済基準の厚生指標を補完できる。②住民と森林との多面的関係性といった都市化社会において重要な側面が反映される。③森林生態系サービスの受益者と森林管理の担い手の間にある非衡平・公正性が認識できる。④森林幸福度は回答者に認識されるすべての側面を反映しうるので包括的である。

  • 愛甲 哲也, 佐々木 芙美
    セッションID: B1
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     山岳地の荒廃した登山道にヤシ繊維製の侵食防止マットを敷設し,土壌と植生の保護と周囲からの種子の供給に期待する施工も行われている。本研究では,大雪山国立公園内の植生タイプや侵食防止マットの施工方法及び利用形態などが異なる裾合平,雲ノ平の登山道脇,南沼野営指定地の踏み分け道脇において植生調査を行い,その効果を検証した。施工箇所のベルト状の調査区に50cm方形枠を設置し,植被率,各植物の被度,出現種数,実生個体の個体数と個体サイズ,傾斜角度を計測した。非施工箇所でも同様の調査を行った。

     裾合平と雲ノ平では,マット施工区の植被率が非施工区より有意に高かった。マット施工区における優占種は,裾合平ではチングルマ,雲ノ平はイワブクロ,南沼はガンコウランであった。裾合平において経過年数が長い施工区ほど,チングルマの実生の平均個体サイズは大きかった。裾合平と雲ノ平では,南向きのマット施工区で植被率が低かった。登山道脇における侵食防止マット施工は周囲の植物の侵入を促進し,個体サイズも大きくなっていることがわかった。施工箇所周辺の植生や地形との関係に配慮した施工が求められる。

  • 大宮 徹, 山下 寿之, 太田 道人, 松久 卓, 城 賀津樹, 荒井 宣仁, 太田 祥平, 山尾 真生, 祐成 亮一, 桑原 優太
    セッションID: B2
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    立山ルートは中部山岳国立公園内の山岳観光ルートで、ほぼ全区間が国有林内にある。亜高山帯・高山帯での緑化には多くの手間と世代を越えた時間が必要であり、事業の継続にはアクセスしやすい形での情報の整理と共有が求められるが、これまでの紙ベースによる記録から広範にわたる緑化事業を俯瞰することは難しい。そこで、GISを用いてこれらの情報を整理し、現状を踏まえつつ課題を探った。

    立山ルートでの人為的攪乱には登山道、道路、施設等、そして緑化それ自体などがある。道に関してはその距離が直感的な指標となるが、近代以前からの登山道で現在の登山道と重複した区間を除く廃止区間は39.8km前後であり、その大半は緑化されず、一部では浸食の進行が見られる。自動車道路では廃止されたジープ道が総延長8.2kmに及び緑化されている。一方、面的に広がった攪乱地のうち、立山トンネル建設に伴う作業場とズリ捨場は5.5haに及び、高標高の厳しい環境のため一次緑化未達成の箇所がある。道路沿線の土捨場は約5.7haあり、その多くで肥料木による一次緑化が完了し、一昨年、最終目標に向かって誘導する二次緑化が開始され、今後の事業を牽引していくことが期待されている。

  • 小林 徹哉, 前中 久行, 大野 朋子
    セッションID: B3
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     身近な緑地である都市公園では緑化樹や観賞用樹木として多くの外国産樹種のほか、その地域に自生しない国産樹種が植栽されてきた。しかし、これらの実生が周辺植生、地域環境に及ぼす影響についての情報は十分ではない。本研究では都市公園であり、広域公園に位置づけられる神戸市立森林植物園を対象として人為的に植栽された国内外の樹種の実生の発生状況や動態について現地調査を行った。

     調査対象地は、瀬戸内海国立公園六甲地域に位置し、国産・外国産の種・品種合計約1,200樹種を生体展示している。造成して80年が経過した同園において、展示木として植栽した木本植物のうち、外国産樹種と周囲の六甲山地に自生しない国産樹種を対象として実生の発生状況を踏査によって把握、その母樹と考えられる個体の位置を確認した。

     その結果、16樹種の実生と母樹が確認され、さらに母樹から100m以上離れた場所での実生発生が3樹種確認された。

     これらの実生発生と今後の園地管理手法について、管理作業の状況や地形などから考察する。

  • 黒田 慶子, 多賀 正明, 村尾 満, 宮嶋 英好, 森 靖雄
    セッションID: B4
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     2020年7月11日に、ご神木のスギ(樹高40m、胸高直径310 cm)が倒壊した。当初「大雨による自然災害」とされたが、原因究明には調査に基づく科学的判断が必要である。本研究では、樹体と根の目視調査、計測、試料採取を行い、2012年の樹勢回復工事の記録を参照して、倒壊の直接的原因を探索した。倒壊時には支持根が全て破断していた。腐朽の進行によって支持根が少なく、その一部は枯死していた。幹の西側と南側に接する池のために根は滞水状態にあり、その腐朽や腐敗を促進したと考えられる。幹の傾斜によって北西側の根にかかる張力は大きく、100トン以上と推定される幹重量に耐えられず、根が破断して樹体が瞬時に倒壊したと判断した。2012年実施の樹勢回復工事の際には、樹幹の傾斜が判明していたが、倒壊防止策を講じていない。一方、細根の発生促進が行われており、葉量の増加で樹冠重量が増加し、近年の傾斜の増加につながったと推測された。倒壊前には、降雨による葉への水分付着があり、樹冠重量がさらに増加していたと考えられる。樹勢という曖昧な評価基準が誤診の元になっており、巨樹の管理に必要な診断項目について、科学的な検討を急ぐ必要がある。

  • 仲 七重, 寺崎 竜雄, 岡本 亮介
    セッションID: B5
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    小笠原諸島では、ドルフィンスイムや南島上陸等の海関連ガイドツアーや戦跡やトレッキング等の森・山関連ガイドツアーが実施され、これらは観光業を主産業とする小笠原諸島において極めて重要な活動となっている。小笠原村は2010年度から来島観光客を対象としたアンケート調査の実施により観光動態の把握に努めてきたが、ガイドツアーの評価分析が課題となっていた。そこで本研究は、同調査の10年分のデータをもとに、ガイドツアーの参加率と満足度の推移を明らかにし、変動の要因を考察することを目的とした。分析では推移を簡潔に示すため傾向指数(10年間の推移の傾き)を指標に用いた。分析の結果、海関連ツアーうち、ドルフィンスイムとカヤックの参加率と満足度の傾向指数が-0.77~-0.58、-0.004~‐0.000と減少傾向となり参加率、満足度ともに低下してることが明らかになった。一方、森・山関連ツアーは全4種すべての傾向指数が、参加率0.22~1.20、満足度0.02~0.04と増加傾向であった。2011年の世界自然遺産登録を境に、来島者の年齢層が高まったことが大きな要因だと考えられるが、ツアー内容の劣化と満足度の低下の関連にも注視が必要であることなどを考察した。

  • Hamaoka Michiho, Hyakumura Kimihiko
    セッションID: B6
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    屋久島は1993年に日本で初めて世界遺産に登録され、日本有数の自然観光地として独自のエコツーリズムを発展させてきた。2006年にガイド登録制度が開始されたが、2016年に屋久島エコツーリズム推進協議会と町の両組織を実施主体とした「屋久島公認ガイド制度」が設立された。2020年現在、屋久島には約170名のガイドが存在する。これまでの屋久島のガイドの成り立ちや変遷を題とした研究は存在するが、屋久島公認ガイド制度へのガイドらの認識についての研究は未だない。本研究では、屋久島のガイドを対象に、ガイド制度に対する評価と、認識を明らかにする。加入者と非加入者双方の論点を探ることを目的とし、制度利用者であるガイドの評価をもとに、より適切な制度のあり方を検討する。調査は、屋久島のガイドに関するレビューと、半構造化インタビュー・インターネットアンケートを行った。結果、ガイドの社会的な地位向上という点については、多くの賛同があったが、ガイド制度に対して、その他ガイド共通に感じるメリットは少ない。また、制度加入の有無にかかわらず、ガイド活動ができるという前提があるため、集客性という観点では制度の重要性は低いことがわかった。

  • 山島 有喜, 山本 清龍, 小堀 貴子
    セッションID: B7
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    地域制公園制度をとる日本の国立公園には,原生的な自然とともに,地域の生活,生業と結びつく二次自然が広く分布する。そうした人との関わりの中で成立した自然を保全するためには,自然への人為の関与を維持することが重要であり,地物の消費など経済の好循環を生むことが重要である。一方,協働型管理への取り組みが進む中,地域自然資産法が制定され,自然資源の保全策として利用者負担や基金制度への関心も高まっている。本研究では,里海,里山の代表的な国立公園である伊勢志摩と阿蘇くじゅうの両国立公園を研究対象として取り上げ,来訪者の公園利用に対する意向を明らかにすること,環境保全基金を想定した場合の来訪者の貢献の意向をふまえた基金の枠組みについて検討することを目的とした。2020年11月,両国立公園において実施した利用者意識調査の結果から,両国立公園に共通して,地域の食や産物が公園利用の目的となっており,基金の使途としては里山・里海の風景の保全・回復が期待されていた。なお,本研究は,(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1906,研究代表者:山本清龍)により実施された。

  • 山本 清龍
    セッションID: B8
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    1934年指定の日光国立公園はわが国最初期の国立公園の一つであり,火山やその火山活動によって形成された湖沼,湿原,瀑布が公園利用者の目的地となり多くの利用者を受け入れている。しかし近年は,公園利用者がもたらす自然資源への悪影響だけでなく,シカやイノシシ等による花,樹木の食害,湖沼の水質の劣化,外来植物の侵入等が問題となっている。一方,公園地域では管理のための財源不足,管理を担う人材の不足の問題があり,訪問者が地域へ貢献することが求められている。そこで本研究では,奥日光地域の駐車場を活用した料金上乗せ型の環境保全基金の導入可能性について検討することを目的とした。2020年7,8月に奥日光地域の有料と無料の5つの駐車場利用者,赤沼と千手ヶ浜を結ぶ低公害バスの利用者を対象とする意識調査を行った結果,態度を表明した回答者の約9割が基金設立に賛成していた。また,使途としては湿原等の自然風景保全回復が最も期待されていたが,有料駐車場と無料駐車場で利用者の貢献意識は異なっていた。なお,本研究は栃木県委託研究の一環として実施し,一部,環境研究総合推進費(4-1906,研究代表者:山本清龍)からの支援を受けた。

  • 平野 悠一郎
    セッションID: B9
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    日本では1960~90年代にかけて、アウトドア・レジャー活動としてのキャンプへの関心が高まり、各地の国有林・民有林内にも多くのキャンプ場が設立された。しかし、1990年代後半以降は、経済不況と利用者の減少による施設過剰状態となり、大多数のキャンプ場の経営が悪化した。これを受けて、2000年代以降は、民間の経営主体を中心に、キャンプ場の再生の動きが顕著となる。その一環として、ウェブを通じた情報集約・予約システムの構築や、宿泊・体験の「質」を重視する動きが見られてきた。近年では、そうしたキャンプ場再生の動きが、幾つかの方向性を伴って加速しつつある。例えば、グランピングやワーケーションの場としての施設整備に加えて、自然教育の機会としてのプログラムを充実させ、また、地域資源活用による地域活性化の基点として位置づける等の傾向が、事例調査を通じて確認できた。

  • 伊藤 太一
    セッションID: B10
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    ダスマン(Raymond F. Dasmann)は生物多様性や持続可能な発展概念の提案者として知られているが、UNESCOの人間と生物圏プログラム(MAB)における生物圏リザーブ(BR)やIUCNの保護地域管理カテゴリにも深く関わっている。1966年に米国保全財団の国際プログラム長となり、UNESCOのバティス(Michel Batisse)から2年後に開催予定の生物圏会議の支援を依頼され、MABに関わるようになる。その過程でトップダウンのIBPに対して地域住民を重視したボトムアップ型のMABを提案する。1970年にIUCNの主席生態学者となってからもMABに関わる一方で、1972年の世界国立公園会議では保護地域管理カテゴリの原案を発表する。その中で比較的広大な保護地域におけるゾーニングを主張しているのが注目されるが、1973年のMAB第8プロジェクトの最終報告ではBRの提案に留まり、1974年にUNESCOのBR指定ガイドラインになってゾーニングが提示される。このようにIUCNの保護地域管理カテゴリの概念はBRにおけるゾーニングの影響を受けている。米国に戻ったダスマンはサンフランシスコ市街も含む市民参加型のゴールデンゲートBRの設立者となっている。

  • 井上 真
    セッションID: B11
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    本報告では、ボルネオ島中央部(インドネシア側とマレーシア側)の国立公園地域を比較検討し、保護地域「協治」の理念面・実態面での意義を明らかにすることを課題とした。<理念面>「SDGs時代の森林政策論」、「保護地域管理論」、「参加型森林管理論」の分野において、「協治」は主に「手段」としての意義を与えられてきた。しかし、人々のエンパワーメントなど「協治」の実現それ自体を目指す「目的」としての意義も補足的に付与されてきた。「目的」としての意義を明確に謳ってきたのは「国際法」分野である。<実態面>インドネシアでは「協治」を保証する法制度が整備されてきた。公園の境界設定とゾーンごとの利用制限決定時には「手段」として、その後の観光客がほとんど来ない状況での「協治」は「目的」としての意義を有している。マレーシアでは「協治」の制度化はみられないものの、公園当局による柔軟な対応によって土地利用に関する住民の要求が部分的に認められ、またエコ・ツーリズムにより便益を得ているなど「手段」としての意義を有している。これを長期継続のためには、「参加」を保証するための法制度の整備が不可欠である。

  • 土屋 俊幸, 柴崎 茂光, 吉田 正人
    セッションID: B12
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    屋久島山岳部は、1964年霧島屋久国立公園指定、1993年世界自然遺産登録を初めとして、国内外の様々な保護地域に指定・登録されてきた。屋久島への年間入込数は、1980年代半ばまで10万人前後で推移していたが、世界遺産登録によるブームから2007年度には40万人を突破し、登山を中心とした観光レクリエーション利用が急速に増大、特に利用が集中した縄文杉ルートを中心に、過剰な利用による混雑、し尿処理、自然環境に与える影響等が大きな問題となった。入込数は2010年代後半にはほぼ半減して20万人台後半で推移してきたが、コロナ禍でこの1年は大きく減少している。環境省は2016年度より「屋久島世界自然遺産・国立公園における山岳部利用のあり方検討会」を組織し、山岳部の利用のあり方について、広範な関係者による継続的な検討を行ってきた。検討会は最終年度を迎えたが、現在までに、ROSの考え方に基づく「あるべき利用体験ランク」ごとの管理目標・方針、利用ルートごとのランク、登山道の区間ごとのランク等を検討・確定してきた。発表では、これまでの成果の概要を報告すると共に、検討過程で析出された問題点、残された課題等について、実践者の立場から報告する。

  • 寺崎 竜雄
    セッションID: B13
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    1972年に(財)日本交通公社が公表した「全国観光資源台帳」は、日本国内から8,117件の観光資源を抽出し、各資源種別に分類するとともに、誘致圏域などを基準に特A級、A級、B級等のランクを設けて各資源を評価している。その後、この台帳は観光レクリエーション適地の選定、地域の観光計画や広域観光ルートの設定等、観光振興の現場で活用されてきた。これまで資源評価の結果に対する見解は散見されてきたが、評価基準とした誘致圏域や誘客力を検証する研究は見当たらない。そこで本研究では、「全国観光資源台帳」の観光資源評価基準の適正性の考察を目的とし、実際の観光旅行訪問者数との関連分析を試みた。その結果、都道府県ごとのB級以上の観光資源数と旅行者数は、相関係数が0.81という強い相関を示した。また、ランク別の相関係数は、A級とB級ともに同程度の高い値であった。一方で、資源種別ごとに旅行者数との関連をみたところ、それぞれの相関係数は大きく異なった。これらをもとに「全国観光資源台帳」による資源評価は都道府県程度の広がりをもつ地域の包括的な誘客力に寄与するが、評価ランクは各資源の誘客力と一律に結びつくものではないこと等を考察した。

  • 安原 有紗, 五木田 玲子
    セッションID: B14
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19、以後新型コロナ)の拡大により、私たちの社会および生活は大きな影響を受けた。特に、移動や外出の自粛などの各種制限によって、旅行行動も大きな制約を強いられた。感染リスクを回避できる安心安全な旅行スタイルへの転換が社会的に求められる中、ソーシャルディスタンスを確保し3密を避けられる旅行タイプとして、自然観光への関心が高まっている。一方で、旅行者のうち特にどのような層が自然観光を志向しているかに関しては分析の余地が残されている。

     そこで本研究では、自然観光を志向する日本人旅行者の特性を明らかにし、新型コロナ流行下における自然観光地のあり方について考察した。具体的には、2020年5月、11月に実施された「JTBF旅行意識調査」の調査データの一部を用いて、行ってみたい旅行タイプに関する設問における「自然観光(自然や景勝地を見てまわる観光旅行)」の選択の有無と個人属性(性別、年代など)、新型コロナに対する意識、旅行頻度等の関係性を分析した。その結果、自然観光を選択した割合は、性別では男性より女性の方が高く、年代別では男女ともに50代以上が高いことなどが示された。

  • 田中 伸彦, 武田 惇奨
    セッションID: B15
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    2019年より林野庁が重点施策に位置づけた「森林サービス産業」の一環で行った「新しい日常における森林活用の意向調査」の概要を報告する。「森林サービス産業」とは、山村の活性化に向けた関係人口の創出・拡大のため、森林空間を健康、観光、教育等の多様な分野で活用する新たなサービス産業のことである。日本では2020年の初頭から、新型コロナウイルスへの感染が社会問題化し、旅行や通勤、出張等の国内外の移動や日常生活が大きく変化した。その様な状況下で、人々の森林に対する意向がどこへ向かうのかを予測するため、「移住」と「観光」をキーワードに3,200人規模のWEBアンケート調査を実施した。調査期間は2020年6月26日~29日で、第1回目の緊急事態宣言が解除されてから約1か月のタイミングで実施できた。そのため、ポストコロナにおける自身のライフスタイルを比較的冷静に判断できる貴重な時期に実施できた調査であると位置づけられる。主な結果としては、農山村移住の意向は24.4%で、移住希望者の「テレワーク移住」の意向は7割を超えていた。また、3密を避けた屋外活動への関心は過半数に達し、森や山における活動意向が相対的に高いなどの意向が示された。

  • 久保田 賢次, 津田 吉晃, 曽我 昌史, 赤坂 宗光
    セッションID: B16
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    山岳地域における事故や遭難が多発しており,警察庁が毎年発表する「山岳遭難の概況」では1961年の発表開始以来,今日まで増加傾向が続いている.行政や山岳団体による啓発活動等が行われてきたが,増加傾向に歯止めをかけ,山岳遭難事故を減少させるような具体的対策はいまだ見出されておらず,有効な遭難防止策の立案と実行が急務である.

    事故の背景や発生原因等を,登山者の属性や行動特性との関連から解き明かすために, 2020年9月~10月に, コロナ禍を受けての登山日数や対象山域,宿泊形態,事故への備え等の質問も加えた全国規模のWebアンケートを実施した(全44問,有効回答3248件).

    予定も含めた年間登山日数については,2019年は11~20日が最多(23.4%)であったが,5日未満が25.0%となり, 近郊の低山が増える(41.0%),日帰り登山が主流になる(50.9%),テント泊を行う(25.5%)等の変化も見られた.また,約52%の人が事故に備える意識には変化がないと答えており,登山道の未整備状態や山小屋の営業中止,救助隊員の感染予防の必要性等の状況も続く中での,安全面への課題も明らかになった.

  • 久保 暁子, 山本 清龍, 山島 有喜, 小堀 貴子
    セッションID: B17
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大により,私たちの生活,産業は大きな影響を受けている。同年4月の緊急事態宣言以降,感染症と観光に関わるいくつかの緊急報告が出されているが,国立公園に関してCOVID-19流行前後で比較された報告は見あたらない。そこで,本研究では,阿蘇くじゅう国立公園を事例とし,COVID-19流行前後における来訪者の属性,行動の特徴とその差異を明らかにし,誘致圏の観点からその変化とその要因について考察することを目的とした。2019年と2020年の両年11月に,阿蘇くじゅう国立公園において郵送回収式アンケート調査を実施した。その結果,感染症拡大後は,県内居住者,家族単位での訪問が多く,旅行者のグループが小さく,訪問目的等の多寡に差異があったことから,感染症への対応行動の結果として国立公園の利用者層,行動に変化が起きていると考えられた。また,宿泊者が多く,GoToトラベルなど観光促進策の効果と思われる変化を確認でき,行政等による観光への助成,支援策 と合わせて考察を行った。なお,本研究は,(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(4-1906,研究代表者:山本清龍)により実施した。

  • 藤野 正也, 久保 雄広, 栗山 浩一
    セッションID: B18
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に流行し、富士山においては対策として4つの登山道すべてが閉鎖された。この対策が国民にどのように評価されているのかを明らかにするため、全国の20歳から69歳の男女1,038名に対し、Webアンケート調査を実施した。感染対策としての登山道閉鎖の妥当性を尋ねたところ、50%が妥当であると回答した。閉鎖された登山道へ侵入する登山者への対応としては、25%が自己責任であれば問題ないと回答した一方、30%が罰金を科すのが良いと回答し、評価が分かれた。また、登山道の閉鎖が終了した場合を想定し、山小屋の宿泊人数を半減させる対策に対して評価を求めたところ、効果を期待する意見が4割あった一方で、相部屋であること自体に対して否定的な意見が4割あり、評価が分かれた。今後、適切な対策を取るためには従来の登山とは異なる形態の構築が必要であると考えられた。

  • 金 慧隣, 愛甲 哲也, 庄子 康, 松島 肇, 伊藤 瑠海, 八尋 聡
    セッションID: B19
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    本研究の目的はCOVID-19流行前後の自然観光地の混雑許容度の変化を把握することである。国立公園では自然環境の保全と良好な利用体験の提供のため過剰利用を避ける必要がある。良好な利用体験の提供という視点から適切な利用者数を検討するため、利用者の許容限界の計測が広く行われている。しかしCOVID-19の影響により、人々の社会心理学的な距離に対する認識が変わっている可能性があり、利用者の許容限界もCOVID-19流行前後で変わっている可能性がある。本研究では知床国立公園のカムイワッカ湯の滝を評価対象とした2014年のWEBアンケート調査を対照とし、2020年にも同じ形式で調査を実施して結果の比較を行った。調査ではカムイワッカ湯の滝を背景とした写真を使い、写っている利用者数が異なる写真を7枚合成し、回答者に提示してそれぞれについて7段階で評定付けを行ってもらった。得られたデータは順序ロジットモデルによって解析を行った。その結果、2020年の許容限界の方が、2014年の許容限界よりも高くなっていた。写真に対する評定付けには2014年と2020年で統計的に有意な差が存在しており、許容限界にも統計的に有意な差があることが推測された。

  • 小堀 貴子
    セッションID: B20
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,世界中で感染が拡大している。インドネシアでは,感染者数合計は869,600人であり死者は25,246人である(2021年1月時点)。インドネシア全体において特に感染者数が多いのはジャワ島であり,ジャカルタ首都特別州・西ジャワ州・中央ジャワ州・東ジャワ州の4州で感染者数全体の6割を占めている。そこで本報告では,感染が集中しているであろうジャワ島の都市部に着目をした。

     本報告では,人々の生活様式の変化に伴い屋外空間である広場での活動がどのような影響を受けたのかについて明らかにし,その社会的役割の変化について考察した。調査ではインターネット上で公開されている行政資料及び新聞記事を中心に用いた。COVID-19の影響を受けて,alun-alunを含む広場はすべて一時的に閉鎖され,自由な活動や賑わいのあった空間は,活動内容の制限が課されるとともに監視員が配置された。またalun-alun では都市の中心という立地を活かして,COVID-19の検査や食糧支援・補償金配布の場所等に利用されており,対策を象徴する役割もあることが示唆された。

    本研究はJSPS科研費(20J40205, 代表:小堀貴子)の助成を受けたものである。

  • 北村 芽唯, 蒔田 明史
    セッションID: C1
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

    近年、日常生活における人々と自然との関わり合いは減少しており、都市部だけでなく緑地が身近にある秋田県においても自然離れは生じている。子どもの自然離れには保護者自身の自然体験の経験や意識等が関係する可能性があるが、未だ知見は不足しており、さらには地域の自然環境との関係についても検討する必要がある。そこで本研究では秋田県の山間地・中山間地・市街地において小中学生とその保護者を対象にアンケートを行った。

    結果、どの地域においても子どもの自然離れは進行しており、保護者の幼少期の遊びの経験はその子どもの遊びの頻度に関係することが明らかとなり、また、保護者が考える子どもの自然離れの要因としてスマホ等の普及による子どもの行動変容と習い事の増加等の時間的な制限が挙げられた。一方、休日家族と自然に出かけるような機会の有無が、子どもの意欲や意識に関係していた。

    以上の結果から、子どもの自然離れの要因として1.保護者の経験不足と2.子どもの自然体験の機会の喪失が考えられる。以上から、子どもの自然離れの抑制には保護者自身の自然体験を促したり、子どもにはイベント等で自然体験の機会を与えたりすることが重要である。

  • 奥芝 理那, 松本 光朗
    セッションID: C2
    発行日: 2021/05/24
    公開日: 2021/11/17
    会議録・要旨集 フリー

     奈良県では中高生に向けた森林教育が提供されておらず、中高生の森林への意識の高さと知識量が伴っていないことが明らかとなった。このことから、小学生時の体験の素地を活かした森林の総合的な知識を提供する森林教育プログラムを開発した。近畿大学農学部の大学生が1、2時間の総合的な学習の時間に教室内で行うことのできる「座学」とアクティブラーニングの一つである「グループワーク」のプログラムを設計し、2年間にのべ6校で実施した。座学は森林の多面的機能や木製品利用の大切さなどを取り上げ、森林への深い理解や林業の負のイメージを払拭することを意図した。グループワークはブレインストーミングと発表を行った。実施前後と3か月後のアンケート調査からプログラムの効果を評価し、座学に比べてグループワークの効果が統計的にも高いことが分かった。また、大学生の参加による教育効果や大学生起用の有効性が検討された。さらに、教員のより高度な森林教育への期待が寄せられた。しかしながら、中高生を対象とした森林教育では理科や社会といった森林に関連する教科の内容とすり合わせて、より高度な内容を取り扱う必要があると考えられた。

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