主催: 一般社団法人日本森林学会
会議名: 第133回日本森林学会大会
回次: 133
開催地: 山形大学によるオンライン開催
開催日: 2022/03/27 - 2022/03/29
紅葉現象は低温下での光阻害から葉を守るための防御的機能を持ち,葉の延命に貢献すると考えられている。紅葉の原因となる赤い色素,アントシアニンの合成には葉への糖の集積が必要となる。葉への糖の集積は離層の発達による篩管のブロックや低温による転流能力の低下が原因として考えられているが,転流阻害は窒素回収や光合成産物の移動にとって不利益を生ずる。本研究は樹冠内の陽葉と陰葉を対象として,紅葉の持つ生理生態学的意義を明らかにすることを目的とした。森林総合研究所北海道支所樹木園のハウチワカエデ成木を対象として測定を行った結果,陽葉では10月13日以降の糖の集積とデンプンの減少と同時にアントシアニンが増加する傾向が見られた。一方で,陰葉ではアントシアニンの増加の程度は小さかった。糖とデンプンを合計した非構造性炭水化物(NSC)と糖の比は,陰葉と陽葉でほぼ同じ値を示し,7月末から8月半ばにかけて一旦減少するが,その後10月末の落葉まで緩やかに増加した。また,糖が集積する一方でNSCの増加は見られなかったことからも,糖の集積の原因は転流阻害ではなく,日長などの季節変化に対応した制御された機構によるものであると考えられた。