【目的】土地利用が高度化した水系では、施業による小さな流況変化にも注意を要する場合が考えられる。そこで通常レベルの間伐が2018年1月末頃主流路沿いの34年生ヒノキ人工林で実施された20haほどの流域における間伐前後の水流出の変化を調べた。【方法】竜ノ口山森林理水試験地の北谷・南谷を対象に、間伐前3年間と間伐後4年間の時間単位の流出水量のハイドログラフを基底流出と直接流出に分離し、それぞれ積算して両谷における各流出成分のダブルマスカーブ解析を行った。【結果】対象期間において植生に顕著な変化が無かったと思われる北谷と、間伐の行われた南谷の基底流出のダブルマスカーブは、間伐前の3年間と間伐後4年間でそれぞれほぼ一致した。その差を単純にみれば、南谷では間伐後に平均約9%増加した状態が維持されていることになるが、対象期間の年降水量は1015~1521mmであり、大局的には減少傾向にあった。年降水量が減少傾向にあるときの基底流出は、北谷の方がより少なくなる傾向が強いため、施業条件に比して基底流出に大きな変化を検出したと考えられる。短期間の対照流域法でも流出特性の違いを考慮した慎重な解析が必要といえる。