集団力学
Online ISSN : 2187-2872
ISSN-L : 2187-2872
日本語論文(英語抄録付)
養子縁組への理解と普及を妨げる構造
--- アクションリサーチへの展望 ---
八ッ塚 一郎東村 知子樂木 章子
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ジャーナル オープンアクセス

2017 年 34 巻 p. 3-19

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抄録

 特別養子縁組に対する理解と普及の進まない要因を検討し、新たなアクションリサーチの可能性を構想する。あわせて、社会構成主義に基づく真実暴露的なアプローチの限界を指摘し、社会的に構成された規範を変容させるための言説的アクションの方向性を考察する。
 特別養子の数は、その社会的な必要性が増す一方であるにも関わらず、極めて低い水準にとどまっている。血縁を重視する伝統や、母子の親密さなど、「産んだら育てるのが当然」という根強い規範のため、特別養子は日本に馴染まないとされてきた。
 実際には、社会学をはじめ多数の学術的研究が、日本特殊論と言うべきこうした常識の虚構性を明らかにしてきた。むしろ血縁に固執しないことこそが日本社会の伝統であり、母子の親密さも近年強調されるようになったに過ぎない。
 ところが、学術的な証拠が蓄積されても、「産んだら育てるのが当然」という規範はいっそう強固となっている。規範が社会的に構成されたに過ぎないことを暴露するのではなく、根拠のない規範がどのように維持されているかを解明し変革を試みるアプローチが必要である。
 
「産んだら育てるのが当然」という規範は、潜在的な別の選択可能性を常に否定し続けることによって維持されている。この規範を変革するためには、否定されてきた選択可能性を肯定する、新たな言説を提示しなくてはならない。すなわち、社会の中で否定され少数者とされがちな存在や生き方が、実際には極めて身近であり、むしろ自分たち自身の姿でもあり得ることを、言説を通して示す必要がある。そのための社会的発信と教育実践の具体的なアプローチを構想した。あわせて、これらの言説実践がレヴィンに始まるアクションリサーチの精神を継承し、社会構成主義の隘路を克服する可能性を持つことを論じた。

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