集団力学
Online ISSN : 2187-2872
ISSN-L : 2187-2872
日本語論文(英語抄録付)
開かれた仏教を目指す仏教者の試み
--- 若手僧侶の活動を事例に ---
飯野 顕志
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2017 年 34 巻 p. 378-418

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抄録

 本研究は仏教に根差したユニークな活動に取り組む若手僧侶を事例とし、日本において仏教を開かれたものとしていく方策を探るものである。日本において多くの人が日々苦悩を抱えて生きているが、仏教や僧侶がそれに対して果たしている役割はあまりに小さい。長く苦悩に応じてきた仏教が現代社会においてその可能性を発揮すべく、仏教を開かれたものにしていく手がかりを探ることを目的として本稿は執筆された。 <br> 本研究のフィールドはフリーマガジンの発行を主な目的として、超宗派の若手僧侶が集まった組織、「フリースタイルな僧侶たち」である。僧侶である筆者は組織のメンバーの一員として、他のメンバーと共に僧侶との対話イベント「アラサー僧侶とゆるーく話す会」への参与観察を行い、多方面から活動をリサーチした。 <br> フィールドワークを通して、主催者である若林氏の語りを聞き、イベント開催に到るまでの背景や、今までの展開を文章化した。彼は、「フリースタイルな僧侶たち」の活動に携わる中で、一般人の視点の重要さに気付き、苦悩を抱えて生きる人々に応答するために「アラサー僧侶とゆるーく話す会」の場をつくってきたという。また、筆者が僧侶として活動に参加する中で、イベントの参加者が日常抱えている苦悩を気負うことなく語る場が構築されていること、僧侶として苦悩を抱えた人の前に座る意味や、参加者の苦悩にひたすら耳を傾けることの必要性を描き出した。<br>  「アラサー僧侶とゆるーく話す会」では苦悩を受容する場が構築されている。参加する僧侶は一般の参加者に近い立場をとりつつ、真摯に苦悩に耳を傾けている。参加者に対しての一方的な語りではなく、双方向的なコミュニケーションを促すことで、僧侶と参加者が共に学びあう関係性が構築されている。一般人の視点に立つという意識のもとに苦悩を聞き入れ、それを僧侶自身の成長の糧とするあり方こそ、仏教を開かれたものにしていく実践になると考察した。

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