2026 年 43 巻 p. 35-46
本研究の目的は、香港に在住している高齢期の日本人移住者がサクセスフルエイジングをどのように語り、意味づけているのかを明らかにすることである。これまでの高齢期の移住者研究では、リタイアメント移住者を対象とした研究が多く、退職後の生活満足度や健康に関心が向けられてきた。一方、海外で長期にわたり就労や事業活動を継続しながら高齢期を迎えた日本人移住者に関する研究は少ない。 本研究では、香港に長期定住し、現在も就労を継続している70代半ばと70代後半の日本人移住者2名を対象に半構造化インタビューを実施した。インタビュー内容は逐語録化し、テーマ分析(Thematic Analysis)を用いて分析した。 分析の結果、A氏からは「役に立ちながら縁を広げ続けるサクセスフルエイジング」、B氏からは「事業を次世代につなぎながら生涯現役を生きるサクセスフルエイジング」という中心テーマが抽出された。A氏の語りでは「縁」と社会貢献が、B氏の語りでは「継承」と経営者としての責任が中核的な意味を持っていた。両者に共通していたのは、引退後の悠々自適な生活のイメージはほとんどなく、健康が続く限り、現在の仕事や社会的役割を継続することを重視していた点であった。すなわち本研究の対象者におけるサクセスフルエイジングは、社会的に意味のある役割を継続することによる自己実現として構成されていることが示された。また、その語りには「関係・貢献型」と「経営・継承型」という異なるパターンが見出された。