地学雑誌
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論説
2013年台風30号(ハイエン)と2011年台風12号(タラス)の過去120年間の類似台風との比較
久保田 尚之
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2018 年 127 巻 4 号 p. 471-482

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抄録

 2011年台風12号(タラス)は,紀伊半島に大雨と土砂崩れを引き起こし,2013年台風30号(ハイエン)は,フィリピンのサマールとレイテ島に高潮を引き起こした。台風ハイエンと台風タラスは,過去に類似の台風経路で類似の被害をもたらした記録が残されている。本論文では,これらフィリピンと日本の2つの台風に着目し,過去117年と過去122年間に観測された類似台風との比較を行った。台風ハイエンと同じ地域に上陸した1897年と1912年の2つの台風は,高潮をもたらしていた。台風ハイエンはフィリピンのビサイヤ地域に上陸した。ビサイヤ地域には,10年間で約15個の台風が上陸している。しかしながら,台風ハイエンを含むこれら3つの台風は,過去117年間でビサイヤ地域に上陸したもっとも強い多風だった。ビサイヤ地域に上陸する強い台風は,サマールとレイテ島に高潮のリスクがあることがわかった。1889年の台風は,台風タラスと同じ地域に大雨と土砂崩れをもたらした。高知県には,10年間で約3.7個の台風が上陸している。台風タラスと1889年の台風は,高知県に上陸した台風のなかでもっとも遅い速度の台風だった。同じ地域には,より強い台風が上陸したにもかかわらず,移動速度が速いために紀伊半島にもたらす雨量は少なかった。高知県に上陸する速度の遅い台風は,紀伊半島に大雨と土砂崩れをもたらすリスクがあることがわかった。台風経路を含む歴史的な紙資料の気象測器の観測記録の画像化やデジタル化は,「データレスキュー」と呼ばれる。長期の台風記録は,台風災害の頻度が小さい場合でも類似の台風被害を調べることを可能にしている。

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