地学雑誌
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スウェー・デンにおけるラップ人の文化と生活
ビルンド エリック中村 和郎
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1981 年 90 巻 2 号 p. 140-145

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抄録

ラップ人の文化は, 伝統的な遊牧と16世紀以降に始まったトナカイ飼育とによって特徴づけられる。海岸と高山の間の長距離を移動するトナカイ飼育は18世紀にはラップ人の強い経済的基盤をなし, 装飾や銀製品などに芸術的作品を産み出すにいたっている。
トナカイ飼育には季節性があり, 中には季節的に道路工事・林業・鉱業に従事するラップ人もいる。夏から初冬にかけて, トナカイは山地で放牧されるが, 冬には針葉樹林に移動する。移動の前にトナカイを駆り集め, 耳に目印をつけて小群に分つ時期が最も忙しい。最近では家畜の管理を牧夫に任せて, 冬の集落に留まる家族が多くなった。
雪が軟らかいときは, トナカイが地表の苔類を掘り出すのに支障がないから, 牧夫の仕事も楽であるが, 雪が多いときには雪の少ない土地を求めて移動しなければならない。雪が凍結すると餓死するトナカイが少なくない。ラップ人が屡々運命論的人生観をもつ所以である。
ラップ人は, このように戸外活動が多いところから, 自然を表現する語彙が豊富である。たとえば, 山に関する語や, 雪に関する語がすこぶる多い。
ラップ人はつい最近まで文字で書かれた文学を持っていなかったが, 口伝を文学に含めるとユニークな特色をもっているということができる。yoiksはラップ人の生活のあらゆる面を感情を込めて歌い上げたものである。
日用品と銀製品のデザインや装飾に, ラップ人の芸術的才能がうかがわれる。日用品は身近にある材料を用いて作られるが, 巧みさに目を見張らせるものがある。トナカイの角製品やししゅうにも優れたものがある。
16世紀に制定された教会法によって, ラップ人は毎年何回かは教会へ行くことが義務づけられた。遠隔地から行くラップ人のために, 教会の近くには宿泊所もでき, スウェーデン内に多数の教会町ができたが, 現在は10余りにすぎない。今でもラップ人は色とりどりの晴着を着て教会を訪れ, この町で買物をする。
ラップ文化はどこから来たのか。確かにこの地方の環境や, 彼らの生活様式が文化を特徴ずけているとはいえ, スカンジナビア北部に分布するようになったのは比較的新しい。移動生活の間に, ノルディックその他との接触も考えられるし, 遙か東方の文化との関連の可能性も否定できない。

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