2010 年 6 巻 2 号 p. 2_52-2_60
完成された映像作品は多くの表現要素を含んでいる。それを視聴する個人の特性や状態は多種多様である。映像のもたらす効果は人間の心身の健康にポジティブ,ネガティブ,又は両面からの影響をもたらす。ネガティブな影響からの研究は進みつつあるが,ポジティブな影響に関する研究は緒についたところである。人間に影響を与えるポジティブ面からの要因が明らかになれば,映像のもつ力を生かした効果的な映像制作や,個人差を加味したストレスコーピングへの貢献が可能になることが予測できる。
本研究では被験映像オブジェクトの速度(映像テンポ)と個人に固有なテンポとの関係に着目し,実験データを基に,心身健康科学的側面から考察した。その結果,個人が快適と感じるテンポと日常の動作テンポには乖離があり,映像テンポがポジティブに個人に及ぼす影響は,本研究で定義する「心身個人テンポ」に関連していることが示唆された。