抄録
心身ともに健康な国民の育成を目指している小・中学校教育において,子どもが性に関して系統的かつ多面的・総合的に学習できるのは性教育である.子どもの性は,心や身体との関わりだけでなく,社会や文化的な面でも深く関わり,心身健康科学として探求すべき課題の1つである.本研究は,子どもの発達と関係する小・中学校の採択上位の教科用図書(保健・保健体育科,理科,社会科,家庭科)及び,道徳「心のノート」(文部科学省)における性に関する事項について,生物学,生理学,心理学,社会学の4分野の観点から分析しその結果を考察することにより,学校における教科としての性教育の充実を図ることを目的とした.教科用図書全般から性教育において重要な性に関する用語を抽出し,学習内容について小・中学校の学年ごとに分析しマトリックスを作成した.マトリックスは縦軸を学年ごとに学習する教科とした.それにより,子どもの発達段階に即しているか否かを明らかにすることができる.横軸は文部科学省が示す性教育の3項目の指導内容(自己の性を確かにするための内容,人間関係構築に必要な内容,家族や社会の一員としてのあり方に関する内容)とした.それら3項目の指導内容を,4分野の観点で分類した.その結果,小学校の5年生と6年生の保健の教科用図書には,性に関する記述が全くなかった.中学校1年生と3年生の保健体育の教科用図書には,性に関する生理的な発達と性感染症に関する記述があった.2年生の教科用図書には性に関する記述が全くなかった.それによって,心身健康科学の視点からみた性教育を実現するための,改善すべき課題を提案することができた.これにより,教科用図書記述に関して,小・中学校での子どもの心身健康の向上にとって必要不可欠と考えられる事項について,学年別及び指導内容別に新たな課題を提示した.