抄録
歯科診療において,薬疹を主訴とした受診例は稀であるが,口内炎などの口腔粘膜病変から薬疹を疑う症例が見受けられる.薬疹は抗菌薬や解熱鎮痛薬,抗炎症薬など,歯科で高頻度に処方される薬剤が原因となるため,歯科医療においても遭遇し得る疾患である.頻度の多い薬疹としては,同一部位に皮疹を発症する固定薬疹や皮膚に浮腫性紅斑を伴う多形紅斑がある.とくに注意を要したい重症薬疹として,致死となる可能性のある皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson 症候群)や中毒性表皮壊死症(Lyell 症候群)は,口腔粘膜症状から診断されることもあり,歯科医療従事者による注意深い観察および薬歴の聴取が重要となる.これらの重症薬疹は迅速な治療が求められるが,それには歯科だけでなく皮膚科などの他科との連携が重要である.そこで,薬疹についての基本的な情報や,医療面接による初期対応ならびに歯科で対応可能な処置についての理解を深めることが必要である.また,他科連携においては診療情報の共有が早期発見・早期治療に繋がるため,歯科診療で薬疹を疑った際の診療情報提供についての知識を得ておくことが望まれる.