日本ヘルスケア歯科学会誌
Online ISSN : 2436-7311
Print ISSN : 2187-1760
ISSN-L : 2187-1760
最新号
日本ヘルスケア歯科学会誌
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
総説
  • 「口腔ケア」を再考する
    杉山 哲也
    2022 年 23 巻 1 号 p. 6-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    要介護高齢者の増加とともに訪問診療をする機会が多くなってきている.訪問診療ではさまざまな全身状態の患者を診ることになるが,口腔ケアはどのような患者に対しても必ず行うべき必須の基本的処置といえるであろう.ただ,ひと言で「口腔ケア」といっても,それが何を表しているのか,どのようにするのか,人によって解釈や内容が異なっているというのが現状である.本稿ではまず,「口腔ケア」という言葉の成り立ちや現時点でのさまざまな定義から,口腔ケアをどのように理解し解釈すればよいのかについて整理する.そのうえでどのように口腔ケアを行うか,さらに口腔ケアを通してどのように患者や家族,介護職などの多職種とかかわっていくべきなのか,社会に期待される,患者のQOL向上に寄与する歯科医療職となるためにどうすべきなのかについて述べる.
  • 岩田 こころ, 岩本 勉
    2022 年 23 巻 1 号 p. 17-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    口腔は生活を営むうえで食事や水分を摂るための摂食器官としての役割や,会話をするために言葉を発する構音器官としての役割,そして,緊急的な呼吸補助の呼吸路としての役割を担う.また,歯並びや顎形態を含めた口腔の形態は顔面を構成する審美的な要素も担い,かつその問題は咀嚼や発語といった口腔機能の問題へとも繋がることからその不調和が心理に与える影響も大きい.小児期は乳歯から永久歯への交換に代表されるようにダイナミックに口腔の形態が変化する時期であり,それに並行してこれらの機能を獲得していく時期である.形態と機能の発育は常に連動しており,かつそこに小児の内面の心理的要素もこれらに大きな影響を及ぼす.特に小児の心理面においては,成育環境が与える影響も大きい. 口腔の健全な育成のためには,形態と機能,そして心理の3つのバランスのとれた調和がきわめて重要で,われわれは1視点だけにとらわれず,多角的にサポートしていく必要がある.一方で,全身的な因子も口腔の形態や機能の発育に大きな関わりをもつ.ここでは,一般的な口腔の発育とその発育に及ぼす全身的な因子についてまとめ,最後に口腔機能発達支援の概説をする.
  • 林 美加子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 24-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    う窩の撲滅を目標に国際チャリティーとして設立されたACFF日本支部では,その活動の一環としてICCMSTM e-ラーニング日本語版を開発している.2019年のFDI声明において,Minimal Intervention Dentistryを浸透させる方略としてICCMSTM を実践することが推奨されている.このICCMSTMの基本構成である「4D」とは,Determine:個人のう蝕リスクの判定,Detect:う蝕の検出と評価,Decide:個人に合わせた治療方針の決定,Do:適切な処置の実行,を示している.そこでは,患者個人としてのう蝕リスクの評価に続いて,ICDASを用いてう蝕病変の進行度と活動性を評価する.そして,両者を勘案してセルフケアおよびプロフェッショナルケアのメニューとリコール間隔を設定して実践し,う蝕マネジメントの効果を評価することになる.今回開発したe-ラーニング日本語版では,わが国の臨床にフィットするように細部を調整しており,まず臨床歯学の教育に活用できるように働きかけていく予定である.
  • 認知症の患者さんが来院されたら
    牧野 路子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 31-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    認知症患者は増加傾向にあり,歯科診療の場においても適切な対応を必要とする.認知症は認知機能の低下により日常生活に支障をきたす状態と定義されているが,認知症となる原因疾患により初期に認める症状は異なる.そのため,軽度認知症患者に遭遇することが多い外来診療室では,それぞれの初期症状を理解し適切に対応することが求められる.認知症が軽度であれば,患者の状態に配慮したうえで,ある程度の歯科治療は可能である.認知症は認知機能の低下とともに口腔環境の悪化が予測されるため,予知性を持った口腔機能管理および口腔衛生管理が重要となる.また,口腔環境悪化の原因に,高次脳機能障害によるセルフケアの困難,他者からの口腔衛生管理への拒否が考えられる.認知症患者は「馴染み」の人が行う「馴染み」の行為や出来事は比較的受け入れやすいため,定期受診など早期からの口腔衛生管理により「馴染み」の関係を構築することも認知症患者の口腔環境を管理するひとつの助けになると考える.さらに,認知症患者やその家族を支援していくために歯科ができることは,地域包括ケアシステムの一員として,地域包括支援センターなど認知症高齢者を支援する社会的資源と連携することである.歯科として,認知症患者を口腔だけでなく,全身状態や生活環境など包括的に支援することが重要である.
  • その痛み,本当に歯が原因ですか?
    井川 雅子
    2022 年 23 巻 1 号 p. 37-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    歯科の臨床現場には,器質的異常がないにもかかわらず慢性疼痛を訴えて受診する患者がいる.従来は,「特発性疼痛」,「心因性疼痛」,「非器質的疼痛」などとさまざまに呼称されてきたが,2017年に国際疼痛学会が「(組織損傷がなくても,)痛みを感知する脳の機能の異常によって痛みが生じることがある」ことを公認し,「nociplastic pain(痛覚変調性疼痛)」という概念を提唱した.痛みの機序分類では,「侵害受容性疼痛」,「神経障害性疼痛」に次ぐ “第3の痛み”という位置づけである.これを受けて,2020年に発表された国際口腔顔面痛分類第1版(International Classification of Orofacial Pain, 1st edition:ICOP-1)には,「特発性口腔顔面痛」の章が設けられ,痛覚変調性疼痛の機序が関与する可能性がある疾患として,「口腔灼熱痛症候群(Burning mouth syndrome:BMS)」,「持続性特発性顔面痛(Persistent idiopathic facial pain:PIFP)」,「持続性特発性歯痛(Persistent idiopathic dentoalveolar pain:PIDAP)」の3つの疾患がここに分類された. 一方で,あまり知られていないが,身体症状症,うつ病,パーソナリティ障害,統合失調症などの精神疾患が原因で,患者が痛みを訴えることがある.機序は明らかではないが,体感幻覚や痛覚変調性疼痛である可能性があげられている.本稿ではこれらの疾患について,症例を供覧しながら解説する.
原著
  • 外園 真規, 井田 貴子, 枝並 直樹, 永田 量子, 竹中 彰治, 栄田 源, 横山 裕也, 石井 裕之, 野杁 由一郎
    2022 年 23 巻 1 号 p. 47-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    う蝕と歯周病は,バイオフィルム感染症の最たるものと位置づけられている.その予防には主因であるデンタルバイオフィルムを効果的に除去する必要がある.デンタルバイオフィルムの除去は,ブラッシングなどによる機械的除去が最も効果的であると考えられてきた.電動歯ブラシは手磨きよりもデンタルバイオフィルムの除去効率が高いとする報告が存在する.しかし,電動歯ブラシを用いる場合であっても,手用歯ブラシと同様に歯列に沿って手を動かす必要があり,その動作が難しいケースも存在する.そこで,共同研究者である早稲田大学関連のベンチャー企業である株式会社Genicsで開発された試作全自動歯ブラシg.eNのデンタルバイオフィルム除去効果を,従来歯面を4分割で評価するO’LearyのPlaque Control Record(PCR)に改良を加え,歯面を6分割で評価して簡易的に半定量評価し,全自動歯ブラシの有用性について検討した.その結果,全顎および全顎を6ブロックに分けたそれぞれの部位で,ブラッシング前と比較し,ブラッシング後のPCRスコアは有意に減少した.本研究で使用した試作全自動歯ブラシg.eNを用いた220秒のブラッシングを行った後の平均PCRスコアは22.4 %であった.本研究の平均22.4 %というスコアは,口腔衛生状態としては良好な値であると考えられ,試作全自動歯ブラシg.eNが有効であることが示唆された.
調査報告
  • 秋元 秀俊
    2022 年 23 巻 1 号 p. 57-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の拡大が,わが国の歯科の受診行動に与えた影響を知るために,全国26都道府県の58歯科診療所の協力を得て,2020年1年間の初診患者数(初めて当該診療所を受診し新たに診療録を起こした者の数)の月ごとの推移を調査した.2018年と2019年の平均月別初診患者数を基準にCOVID-19パンデミックの始まった2020年の初診患者数の推移をみると,次のような特徴があった.①未成年者は4〜7月に減少し,男性で10月,女性で9月に増加した,②成人の初診患者は1年を通じて前年比60〜90 %程度の低い水準にとどまった,③成人男性は4月,成人女性は5月に半減し,9,10月にいくぶん回復した.この初診患者数の大きな変化は,未成年者については,母子保健事業の歯科健診が対象年齢に縛られることなくCOVID-19蔓延期を避けて実施され,併せて学校歯科健診の実施時期が年度内に繰り延べになったことに大きな影響を受けたと考えられる.成人の初診患者数は4,5月に急減し,9,10月に前年並みに戻るという急激な減少と増加の波を経験した.これは緊急事態宣言に伴って受診を控える者が多く,一部の診療所では休診としたために初診患者が減少したが,その受診を控えた者がCOVID-19の落ち着いた9,10月に揺り戻して増加をもたらしたものと推測される.
  • 秋元 秀俊, 藤木 省三
    2022 年 23 巻 1 号 p. 65-
    発行日: 2022/12/20
    公開日: 2023/09/19
    ジャーナル オープンアクセス
    この調査は,定期管理型歯科診療所の初診患者の経年的動向を知ることを目的に,日本ヘルスケア歯科学会の会員診療所(主に認証診療所)において日常的に記録されている資料を収集して,その初診患者の特徴を分析したものである.この第15次調査は,59診療所(26都道府県)の1年間(2020年1月1日から12月31日)の匿名化された初診患者(生年月日と性別の記載がある患者総数12,919人,男性5,725人,女性7,194人)の口腔内の記録を集計・分析したものである.会員診療所のうち原則として初診患者全員の口腔内記録がデジタル化されたデータとして提出可能で,6歳以上の小児について1人平均DMF歯数(以下,DMFT指数),成人についてはDMFT指数のほか,残存歯数,歯周病進行度,喫煙経験の記録のある会員に協力を要請し,その記録を集計した(必ずしもすべての記録が揃っているわけではない).その結果,前回調査に引き続き12歳以上の年齢(階層)別DMFT指数の低下,若年層男性の非喫煙者率の増加が認められた.また男女とも高齢者の現在歯数の増加が認められた.
feedback
Top